「不思議の国のシドニ」伊原剛志 丸暗記フランス語でイザベル・ユペールと共演「感情を乗せれば問題ない」
ユペールは気さく、すし好き
溝口健三は最初はぶっきらぼうで、セリフも棒読みの感じだ。「シドニが想像していた日本人のイメージとは大違い。自分が招待したのにもかかわらず、空港で出迎えた時からサッサと歩いていくし、サングラスをかけ少しミステリアス。何を考えているか分からない男だ」。ジラール監督の日本での実体験も参考に、心を閉ざした溝口の硬さを表現した。この映画、日本や日本人を描いた映画にありがちな無理解、勘違いといったとんでもなさがほとんどない。監督らのリサーチの成果だ。 ユペールについては「オンとオフの切り替えがはっきりしている。撮影中は完璧になり切っているが、終わればジラール監督らみんなで食事に行く。おすしが大好物。撮影から離れると大女優の威厳とかオーラは感じず、人懐っこかった」と話す。「お互いの役について話はしなかったが、ユペールと相談して『こう動いた方がいい』『こう動きたい』と監督に話したことはあった」 「ユペールとは(セリフの)いいキャッチボール、セッションがたくさんできたと思う」と満足げに語る。「彼女が料亭で食事しながら泣くシーンは僕と別々に撮っているが、映らなくても目の前にいる僕の目を見ながら長い芝居をしていたし、その逆に僕のシーンの時は彼女がいてくれた」。さらにこう付け加えた。「ユペールは幽霊とか祖先への思い、生まれ変わりといった日本的な考え方に違和感がなく、むしろ好きなくらいだった」
外国映画の撮影現場では、意見をはっきり言う
外国映画への出演に積極的なのはなぜか。「日本がどうこうではなく、外国での映画作りに参加したいと考えた。いろいろな国の人とできると思ったのは『汚れた心』から。スタッフもキャストも、映画が言語になっていると感じた。自分に合っているとも考えた。これからもチャンスがあれば、オーディションを受けに行く」と当然のように言葉が出てきた。話したこともないフランス語での演技、ユペールという大女優の相手役というハードルやプレッシャーはあっても「言葉は2次的に出てくるもので、その前の感情が大切」と考え方はシンプル。しかも経験値が高いから力強い。 「今回もそうだが、外国の撮影では『このシーンはこうしたいと思うが、どうか』と自分の考えははっきり言うことにしている。海外では意見を言うのは当たり前で、むしろ言わないと役について考えていないと思われる」と経験を生かす。 役名の溝口健三は、日本が世界に誇る大監督、溝口健二をもじった〝大役〟。「ジラール監督が『海外でもみんなが覚えやすい名前だから』と言っていたが、演じる方はあまり関係ないですよ」とさらりと話した。
映画記者 鈴木隆