「不思議の国のシドニ」伊原剛志 丸暗記フランス語でイザベル・ユペールと共演「感情を乗せれば問題ない」
フランスの大女優、イザベル・ユペールと「不思議の国シドニ」で共演した伊原剛志。東京国際映画祭での舞台あいさつでユペールから「ツヨシは謙虚すぎるわ! 彼がいなければこの作品は成り立たなかった」と言われるほど、フランス語を流ちょうに話し、作品をけん引した。外国作品への出演も多い国際派俳優は初のフランス語のセリフ、大女優との共演にどう挑んだのか。 【写真】インタビューに破顔する「不思議の国のシドニ」の伊原剛志
フランス人作家が遭遇する日本
フランスの作家シドニ(ユペール)は、著書の再販を機に日本の出版社に招かれる。出迎えたのは寡黙な編集者の溝口健三(伊原)。サイン会や取材、記者会見をしながら京都や奈良、現代アートの聖地といわれる香川・直島をめぐる2人。 途中、シドニは不可解な出来事に遭遇し、亡くなったはずの夫アントワーヌが幽霊となって現れる。一方溝口も、妻との関係が壊れたことへの後悔と悲しみをシドニに告白。喪失感を抱える2人は、日本の文化や信仰、死者とのかかわりを通じて哀悼と再生、新たな愛の始まりを感じていく。
スカイプで特訓 長ゼリフもこなす
クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」(2006年)、ブラジル映画「汚れた心」(12年)など海外の作品に多数出演しているが、フランス映画は初めてだった。エリーズ・ジラール監督のオーディションは、19年に日本で面接の形で行われた。相手役はユペールと決まっていたが脚本はまだなかった。ジラール監督は起用の決め手を「いろんな日本の俳優に会い、みんな自分をピーアールしたり良く見せたりしようとした。しかしツヨシは自然体。そこが良かった」と話したという。 「当初はセリフがほぼフランス語であることも知らなかった。『俺、フランス語しゃべるの?』って感じ。『英語でできないか』と聞き返したこともあった」。知っていたフランス語は「ボンジュール(こんにちは)」と「サバ(元気)?」くらい。準備期間が4カ月あり、さらにコロナで1年延期になった。「監督とスカイプで30~40回、セリフのレッスンをした。細かいニュアンスを確認し、日本人には難しい発音も含めてひとつひとつブラッシュアップして撮影に臨んだ」。といっても「全部丸覚え。しかも、最終的にいくつかカットされた」と苦労の一端を明かす。 撮影現場ではセリフを話すたびに、監督や、日本語とフランス語の両方を話せるスタッフに「今の大丈夫?」と逐一確認。後半の長いセリフも乗り切った。「大変だったが、日本語以外の言語で芝居することや、そこに感情を乗せることに慣れていたので、何とかできた」と頰を緩めた。ユペールとの最初の芝居の時に、フランス語で話しかけられたという。「フランス語はできない、と英語で言ったら『エッ!』と驚かれて、少し自信がついた。周りの人が拙いフランス語をほめて、大丈夫と言ってくれたおかげ」と感謝する。「わりと『耳がいい』と言われている」ともう一つの武器も役に立った。