黒沢清監督×川上洋平 最新映画「Cloud クラウド」の見どころを語る 川上「今の時代を反映しているなと思いました」
◆もともと菅田将暉のキャスティングを想定していた
川上:「Cloud クラウド」の着想はどこから湧いたものですか? 黒沢:ごく普通の人たちが何かで、最終的には殺すか・殺されるかののっぴきならない関係に陥ってしまう映画を作りたいなと思っていたんですね。1つの娯楽映画という形式なんですけども、1970年代ぐらいにはアメリカ映画でけっこうあったと認識しているのですが、近年では海外でもほとんどなくなっていて。 そういう一種のアクションとか暴力的な関係性というと殺し屋とかスパイといった、その道の専門家の方々が激しいバトルを繰り広げる作品はあるんですけど、基本的に暴力とは無縁で生きてきた人々同士がそうなるっていうのは近年ではなかなかないんですね。だからこそやりたいなという思いがありました。 物語は作ったんですけども、最初はお金が集まらなくてですね、しかもオリジナルの物語だと商業映画としてなかなか成立しづらい状況が続いていました。菅田将暉さんが出てくれることが決まってから、とんとんと話が進んだ感じでしたね。 川上:ハマり役でしたね。 黒沢:菅田さん、ピッタリでしたね。何とも言えない、いい人だか悪い人だかわからない、曖昧な感じが本当にうまい方です。あの感じを魅力的にやれる若い俳優はなかなかいないと思います。当初から菅田さんが出てくれたらいいなと思っていたんです。 川上:最初から決まっていたんですか? 黒沢:イメージキャストは菅田将暉さんだけど、無理だと思っていました。幸運な出会いで成立しました。
◆アクションで表現できることはたくさんある
川上:「Cloud クラウド」は、今の時代を反映しているなと思いました。インターネットを通じてどんどん暴力的になっていくのって、これまでの映画ではあまり表現されていないんですけど、わりとニュースでは普通に目にすることなんですよね。 黒沢:インターネットで知らない人たち同士が集まって悪いことをするのは近年ニュースでよく見ますね。それがやりたいと思っていたわけではないんですけど、悪者たちと戦う、わかりやすいアクション映画という構図にしたかったんです。それをどうするかというのはものすごく高いハードルだったんですよ。 お互いのことをほとんど知らないような人たちだけど、主人公に対してはちょっとした恨みがあるっていうことだけが共通している。インターネットだったらそういう人たちが集まってくるよねってところで、悪者たちを作っていきました。知らないからこそ無茶ができる人たちですね。 川上:そこが本当に怖かったですね。理解できない恐怖って今の時代背景にもあるし、ニュースで「なんでこんなことをするんだろう」と思うようなことがちゃんと描かれていました。後半はかなりアクション映画でしたね。 黒沢:それがやりたかったことなんですよ。悪い奴と戦うという古典的な映画の1つのパターンを、現代日本の普通の人たちでやるっていうのはなかなか技が必要でした(笑)。 川上:そうですよね。僕は前情報なしに観賞させていただいたんですけども、ファンにとっては「黒沢監督はアクションがやりたかったんだ!」って衝撃を受けたと思います。 黒沢:昔からアクションはやりたかったんですけど、なかなか日本では成立しないんですよ。原作とかあれば、まだいいのかもしれないですけども。 川上:「CURE」の前はVシネをやられていますよね。そこの影響もありますか? 黒沢:そうですね。その頃は少しだけアクションめいたものはやらせていただきました。 川上:では、久々にアクションを撮られたということですね。 黒沢:若い頃、アメリカ映画を中心にアクションものをたくさん観て、見惚れていたんですよね。ワクワクもするんですけど、同時に話がどうとでもなるなと思ったんですよ。楽しくもなるし悲惨にもなるし、ユーモラスにもなる。 一言でアクションと言いますけども、実に多様でいろんなドラマをそこに盛り込めるんですよね。かつ、娯楽映画として見ごたえもありますから、アクションをやりたいと常々思っていました。