中国をけん制? フィリピンと米国が新軍事協定を結ぶ狙いは
5月7日、ベトナム船に衝突する中国船の映像が伝えられた南シナ海。これに先立つ4月28日、フィリピンと米国が新しい軍事協定に調印しました。これによって、海上警備などに関する米軍の訓練や、フィリピン軍との合同演習が増えるとみられます。この軍事協力の背景には、ベトナムと同様、フィリピンが中国と南シナ海で対立を深めていることがあります。
フィリピンと米国の軍事協力
米国の植民地だったフィリピンは、1946年に独立。独立後も米国との関係が強く、冷戦期には米軍基地も置かれていました。 しかし、米兵による犯罪が多発していたこともあり、フィリピン国内では米軍基地への不満が拡大。冷戦終結後の1991年、当時アジア最大の米軍基地だったスービック海軍基地がフィリピン政府に返還されました。これ以降、両軍の合同演習は継続されたものの、フィリピンに米軍が駐留することはなくなったのです。 こうして、一度は疎遠になったフィリピンと米国の軍事協力は、今回の新軍事協定で、再び活発になるとみられます。
南シナ海の領有権問題
この方針転換をフィリピンに促したのは、中国の海洋進出でした。フィリピンと中国は、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)などの領有をめぐって対立しています。この一帯には海底油田が確認されています。特に2012年4月、この海域で操業していた中国漁船がフィリピン海軍に拿捕され、これに中国の監視船が出動して以来、緊張が高まっているのです。 フィリピンは、やはり南シナ海で、中国との間に領有権問題を抱えるベトナムやマレーシアなどと連携。周辺のASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国を巻き込んで、南シナ海での現状凍結や紛争の平和的処理に関する「行動規範」の策定を目指しています。しかし、中国が「二国間での交渉」を強調しているだけでなく、直接関係ない周辺国は中国との関係悪化を恐れて、これに消極的。そのため、法的拘束力のあるルールは策定できていません。 さらに、フィリピンは2013年1月、中国がスカボロー礁に建物を建て始めたと批判し、国際海洋法条約に基づいて仲裁裁判所に提訴。しかし、中国がこれに応じていないため、審理には至っていません。