『孤独のグルメ』は時代に求められた作品だった 一人飲みに通じる個食の愉しみ
『孤独のグルメ2024大晦日スペシャル 太平洋から日本海 五郎、北へ あの人たちの所まで。』が、12月31日22時よりテレビ東京系で放送される。『孤独のグルメ』について語るほど味気ないことはない。番組冒頭のナレーションが示すように、誰にも邪魔されず独り黙々と食べることを楽しむ至極の時間を、どこの馬の骨かも知れないライターが書いた駄文で汚されるなら、それこそ噴飯ものであり、居合わせた客にアームロックをかけられても文句は言えない。 【写真】『孤独のグルメ2024大晦日スペシャル』場面カット(複数あり) それでもあえて筆を執ったのは、特異な成り立ちを持つ一連のシリーズに、ドラマファンとして純粋に興味を引かれたからである。否、惹かれ続けていると言っていい。本稿では『孤独のグルメ』がなぜこれほどまでに愛されるか、その理由を探ってみたい。ちょうどこの1月には、主演の松重豊自身がメガホンを取り、脚本を担当した『劇映画 孤独のグルメ』が封切られる。本作の歩みを振り返るには絶好のタイミングと言えよう。 『孤独のグルメ』について、作品の成立過程、人物造形、実店舗の情報は、公式サイトや各媒体で関係者による詳細な解説がある。ここで注目したいのは本作特有の構造である。本作を嚆矢とする深夜帯のグルメドラマ、いわゆる“飯テロ”ドラマは、以前にも記事で触れたように、「極端にドラマ性をそぎ落とした演出」が特徴だ。『孤独のグルメ』で主人公の井之頭五郎(松重豊)の身に生起する出来事は、スペシャルドラマをのぞけば、基本的に日常の範疇にとどまる。それらは、五郎が「腹が減った」自分自身を見いだすプロセスの一部となっている。 本作が早い段階で視覚的な「映え」に傾倒したことは特筆される。『孤独のグルメ』は、ドラマ畑出身ではないスタッフが加わり、ドキュメンタリーを意識して撮影された作品であり、料理を大写しにするグルメカットや、差替えを使わずに食べ終える食事シーンが過去作にない臨場感をもたらした。松重豊演じる五郎の表情や心の声と相まって、ドラマのクライマックスとなっていることは周知のとおりだ。 登場する料理や店舗は全て実在のもので、スタッフが足を運んで調べている。これらの店舗には共通点がある。それは、かなりの確率で酒類を提供していること。つまり「飲める店」なのである。原作者の久住昌之が実店舗を訪れる本編放送後の「ふらっとQusumi」を観れば一目瞭然だ。これにはSeason7までの監督である故溝口憲司氏の嗜好が反映されていると言われる。