「壁」が103万円から引き上げられる?その影響は?
所得税を払っているすべての人に影響する
この103万円の壁の話。この壁の範囲内でアルバイトやパートで働いている人への影響が良く注目されています。せっかく時給が上がっても、103万円の壁があるので、逆に働く日数、時間を減らす必要が出てくるといった話です。私のゼミ生でも、「今年はこれ以上バイトできないです」と言っているものがおります。 学生アルバイトをしているお子さんがいる親御さんへの影響も注目されていますよね。私も上記のnoteで書きましたが、お子さんが103万円の壁を超えるとお子さんに税金がかかるだけでなく、親御さんの所得税も増えてしまうためです。親御さんの所得税計算における扶養控除が減らされるのです。 一方、上記のような事例でなくても、今回の基礎控除などの引き上げは所得税を払っているすべての人に影響します。前述したように、例えば、基礎控除が増えると、(他の控除額に変化がないという前提で)課税所得金額が減少し、支払う所得税が減るためです。
では、どれぐらいの減税になるのか?
では、与党と国民民主党の協議で基礎控除の引き上げが実現した場合、どの程度の減税額になるのでしょうか?これは、皆さんそれぞれの課税所得金額によって変わってきます。財務省ホームページの図のように、所得税の税率は課税所得に応じて上昇する累進税率になっているためです。 より厳密には超過累進税率と呼ばれる構造になっています。例えば課税所得金額800万円の人を例にとってみると、 ①195万円未満の部分には5% ②195万円以上330万円未満の部分には10% ③330万円以上695万円未満の部分には20% ④695万円以上800万円の部分には23% の税率が適用されます。 ここで、基礎控除の10万円の引き上げで課税所得金額が790万円に減ると、上記の④の部分(この方の限界税率)の金額が10万円減るため、減税額は10万円×23%=2万3000円となります。 課税所得金額の減り方によっては限界税率が下がるケースもあるでしょうが、ざっと言えば、適用されている限界税率に課税所得金額の減少額(控除の増加額)を掛けたものが、その人にとっての減税額になるのです。
財務省は素直に応じるかな(汗)
この103万円の壁については、私の知人のエコノミストの方もかねて必要性を感じていて、昨年、財務省の担当者に直接議論を投げかけたそうです。ただ、その時は「時期尚早だ」と片付けられたと聞いておりました。それだけに、選挙結果のおかげ(?)で議論の遡上に上るようになったのは喜ばしいことかと思います。 一方、上記検討したように、基礎控除の引き上げは、課税所得金額が多い(適用される限界税率が高い)人ほど、控除額を増やすことによる減税額が大きくなる傾向があります。これを逆手に(例えば、「金持ち優遇だ」といった批判とか?)、他の控除の整理・縮小などが出てこないか注意しておきたいですね。
飯塚 信夫(神奈川大学経済学部教授)