大阪公立進学校の寝屋川高が28年ぶり快挙を狙う裏にプロ顔負けの弱者兵法
最後に。 一貫田と藤原の2人に午後6時に下校してから何をしているのか?と聞いた。 主将が、こう教えてくれた。 「塾ですよ。家に帰るのは夜の10時とか11時。そこからバット振ります。バッティング練習は朝しかできないので午前7時過ぎにはグラウンドに出ています。寝る暇ないっす」 通っているのは難関大突破を売り物にしている予備校「東進」。現在3年生で塾に行っていないのは藤原くらいだそうで「みんな塾に行くんでびびってるんですよ」と笑う。ちなみに一貫田は、大阪市立大への進学希望で、藤原は、兄がエースとして活躍中の京大ではなく、神戸大か、大阪市立大。2人共に大学でも野球がやりたいという。 「和~達成~」が、このチームのスローガン。 その達成とは何かを問うと「公立ナンバーワン」だという。 その先に甲子園は? 夢へのカギを握っているエース右腕が答えた。 「ぎりぎり手の届くところ。近づいている。1年の頃は行けるわけがないと思っていたけれど、今は“ワンチャン”行けるんちゃうのって」 大阪で公立高が夏の甲子園に出場したのは1990年に、のちに近鉄、メジャー、中日などで活躍することになる中村紀洋氏が主軸だった渋谷高が最後。昨年は大冠高が決勝へ進出したが、最後は大阪桐蔭高に敗れた。 大阪桐蔭とは当たりたくないと語っていた藤原に「何点あれば桐蔭に勝てるか?」と問う。 「5点あれば。5点取れればいける」 一貫田がうなづく。 「藤原が抑えてくれるとしても、もうちょっと打てないと勝てないからね」 達監督も、その生徒の高いモチベーションを感じ取っている。 「大いなる勘違いでね(笑)。彼らの普段の会話に甲子園という言葉が出る。本気で甲子園を狙っています。だからこっちも、その勘違いを利用させてもらっている。あの大阪桐蔭との試合で最後まで詰められなかった。追いかける展開だけを想定して僕が試合の終わり方を教えてなかった。根尾を敬遠させてもよかったんです。今はそこを詰めています」 6月22日に抽選会が行われ、寝屋川は2回戦からの登場で16日(万博)に大阪高と対戦することになり、大阪桐蔭との再戦の可能性は、3回戦突破以降の抽選結果に委ねられることになった。抽選会では、寝屋川の対戦ブロックの空いた枠に履正社が入る可能性もあって選手たちはドキドキしていたというが、達監督は、この抽選結果を「いいくじになりました。対戦相手の試合を観察できて情報を収集できるのが大きいです」とポジティブに受けとめた。寝屋高の暑い夏が始まるのである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)