スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
「わたしのような状態でも貢献できる」
コンプソンさんはこのプロジェクトに携わる8人の退役軍人の責任者である。メンバーには元空挺部隊員や戦車指揮官、電気機械技術兵団(REME)や後方支援部隊などの出身者もいる。 それぞれのスキルと経験がこの仕事に生かされている。ボディはさすがに彼らの手に余るので、できる限りのことをする。最終的な成形、充填、塗装などの作業は、地元のドラゴンテック社が無料で行う。 しかし、修復は容易ではない。BRZは2016年に登録され、走行距離わずか4万kmしかないのだが、少々ひどい状態だ。英国の保険会社の用語で「カテゴリーN」にあたる損傷具合で、いくら構造的に問題がないといってもダメージは大きい。 早い段階でつまずいたことの1つは、過去のある時点で、助手席側のカーテンエアバッグ周りのルーフライニングが、エアバッグが未使用であるかのように見せかけるために加工されていたことだ。一時的に足を引っ張られただけでなく、残りのすべてのエアバッグセンサーを取り付け、機能させるのにもかなり時間を使った。 エンジンと格闘しているのは、元空挺部隊員のスティーブ・ビンズさんだ。彼はフォークランド紛争にも従軍したが、帰還後1か月も経たないうちに事故に遭い、現在は車椅子を使用している。 最近、ミッション・モータースポーツ主催のイベントに参加したことがきっかけで、レースライセンスを取得し、今回のBRZ修復プロジェクトへと至った。「チームは長い間、このような包括的なマシンを必要としていました」と、フロントサブフレームを改修したビンズさんは言う。「恩恵を受ける退役軍人はたくさんいます」 ビンズさんの同僚のドム・ピアソンさんもその1人だ。元REMEの技術者だった彼も、2年前の事故で車椅子を使用するようになった。ミッション・モータースポーツのスタッフが彼を訪ね、新しい未来を見せたとき、彼は1年半にわたってリハビリ生活を送っていた。 「BRZはわたしに集中するものを与えてくれたし、わたしのような状態でも貢献できることを教えてくれました。今はただ、修理の仕事に戻りたいんです」とピアソンさんは言う。彼の言葉を借りれば、今はスバルの「油まみれの部品と電気」の世話をしているそうだ。 プロジェクト・マネージャーを務めるのはクリント・ゲルダードさん。軍の通信隊に所属していた彼は、その後警察官やアマゾンのシニア・オペレーション・マネージャーといった職を転々としたが、やがて「うまくいかなくなった」ため、慈善団体の門を叩いた。 軍人ならではのユーモアも忘れていないが、ゲルダートさんはBRZ修復プロジェクトにもっと大きな意味があることも認識している。後に続く人たちのためでもあるのだ。「このクルマはわたし達だけのものではありません。彼らに同じような兄弟愛を感じてもらえれば、それで役目を果たせたことになります」
ジョン・エバンス(執筆) 林汰久也(翻訳)