「私ってメンヘラ?」「セルフラブがわからない」そんなとき読みたい専門医のアドバイス
どのようにセルフメンタルケアすればいい? 二人からのメッセージ
――中川さんは、日頃からどのようなセルフケアをされているのでしょうか? 中川: 今、私が生活のなかで重視しているのが、まさにセルフケアです。普段はロースクールに通いながら昼間はアルバイトをする生活を送っているのですが、完全にオンとオフを分け、朝はサーフィン、夕方はホットヨガ、週末や休みの日にはハイキングと、休むときはとことん休むように心がけています。こうしてセルフケアを習慣にしたおかげか、最近、ずっと飲み続けていた抗うつ剤もやめることができました。 ●セルフケアの武器はたくさんあるほどいい 藤野: 中川さんのように、セルフケアの武器は山ほど持っておくことが大事です。しんどくなってしまったとき、ひとつの方法が効かなくても、たくさん試したうちのどれかが効いてくる可能性があります。さまざまなケア方法について、日頃から情報に触れ、知識を蓄えておくと、いざというとき役立つと思いますよ。 中川: 一人で過ごす時間もセルフラブのために大事だなと感じます。平日は一日中仕事、オフの日は友人や家族と過ごして…という生活を送っていると、実は、一人の時間があまりないことに気づきます。そうするといつの間にか自分自身と距離ができてしまうような気がします。私の場合、そこから不安が生まれてくることが多いので、意識的に一人で過ごす時間を持つようにしています。 ――最後に、現在「自分はメンヘラかも…」と感じている人や、つらさや苦しさを抱えている人へ、お二人からメッセージをお願いします。 中川: これは、本当にしんどかったときの自分に向けてでもあるのですが、「一人で抱える必要はないんだよ」と伝えたいですね。まわりに助けを求めることは、決して弱さではなく、逆に「今の自分を変えたい」という強さなのだと思います。例えばカウンセリングや精神科で相談してみるのもいいし、そのハードルが高ければ、信頼できる人にちょっとずつ打ち明けてみるのでもいいと思います。自分の弱さを見せる強さを大切にしてほしいです。 藤野: この社会に生きていると、何かたいそうなことをしなきゃいけない、何者かにならなくちゃいけない、と思い込んでしまう人も多いと思うのですが、僕らはみんな完璧ではないし、スーパーマンでもありません。今の自分のありのままを許して、受け入れてあげることが、人生を生きやすくするためのひとつのコツなんですよね。何気ない日常が続いていったとしても、いつか振り返ってみれば人生は勝手に積み重なっているもの。100年後は必ずみんな死んでしまうわけで、何か頑張ったから必ず天国に行けるとか、そういうことでもないじゃないですか。もちろん何かやりたいことをガシガシやってもいいし、ただぼーっとゆるく生きたっていい。どっちを選ぶのも同等な権利なんです。だから、 “どうせ大丈夫”と思って気楽に生きてみるのがいいのではないでしょうか。 中川: 私たちは資本主義社会のなかで、誰がいちばん成功しているのか、誰がいちばんトップの企業で働いているのか、いつだって競争にさらされています。特に日本は、「苦労は買ってでもしろ」などと我慢を称賛する風潮もあり、私自身いい大学入って、いい会社で働いて、…というプレッシャーのなかで生きてきました。でも、そうじゃない。単に生きていることが、十分にすごいことなんですよね。今、本当に人生が楽しくて。サーフィンして、アルバイトしているだけの毎日だけど、「そんなに頑張らなくていいんだよ」と自分で自分に言えるようになって、本当によかったなと思っています。 精神科医・産業医・公認心理師 藤野智哉先生 秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。SNSやメディアを通じ、障害とともに生きることで学んできた考え方と精神科医としての知見を発信。著書に『「自分に生まれてよかった」と思えるようになる本 心が軽くなる26のルール』(幻冬舎)『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)など、最新刊に『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。 「Blossom The Project」代表 中川・ホフマン・愛 日本生まれの南アフリカと日本のミックス。アメリカ、フィリピン、アラブ首長国連邦での生活経験がある。ニューヨーク大学で政治学を専攻。現在、弁護士を目指してロースクールに通う。自身もメンタルヘルスで悩みを抱えていた経験や、グローバルな知見をいかして、2020年4月、メンタルヘルスを中心としたさまざまな社会課題を日・英で発信するインディペンデントメディア「Blossom The Project」を設立。メンタルヘルスやセルフケアの重要性をわかりやすく伝える発信に多くの若者が共感を寄せている。 取材・文/秦レンナ イラスト/Rei Kuriyagawa