【現地ルポ】ここは本当に日本か!? 北海道ニセコ"外国人支配"の実態
■勢いが衰えない海外からの投資 「中国のIT企業経営者で、1泊200万円くらいのリッツカールトンのスイートに泊まる人が、私の〝パパ〟。彼が冬に日本に来たときは、待ち合わせ場所の成田からそのままニセコに連れていかれます」 そう話すのは、外国人富裕層を相手に〝愛人業〟を行なっているという日本人女性の山岸美悠さん(仮名、25歳)だ。ニセコのインバウンドの「真の主役」は、こうした富豪たちである。 「クラブでお酒を片手に盛り上がっている人と話したら、超有名外資系金融の偉い人だったりする。ニセコはそういう街です」(山岸さん) かつて長野オリンピック会場だった志賀高原をはじめ、国際的に名を知られた日本のスキー場はほかにもある。 だが、高級ホテルや別荘地、ミシュランガイドで星を獲得するレベルのレストラン、温泉を用いた高級スパなどのラグジュアリーな施設と最高の雪質を備え、英語環境も整備されたスノーリゾートはニセコだけだ。 しかも、国際線が発着する新千歳空港からはバスで1時間半程度の好立地である。最近は、それでも時間が惜しいと新千歳からのヘリコプター便の運航を求める声もあるという。 ニセコのこうした状況はいつ始まったのだろうか。 「2010年頃まではオーストラリアなどからの小規模な投資が多かったんですが、ここ十数年で香港やシンガポールなど華人系の大規模投資が増えました。数百億~1000億円規模のリゾートホテル開発の話も珍しくありませんよ」 ニセコ在住のオーストラリア人で、開発事業の土地設計に携わるアンドリュー・スレター氏は、流暢な日本語でそう話す。 ニセコはかつてバブル期ににぎわったが、スキーブームの終焉で低迷。だが、オーストラリアなど南半球の人たちの間で、夏季(この地域は日本の季節と逆になる)のスキー旅行先として話題になる。その情報が、やがてほかの英語圏諸国や香港などの外国人にも知られるようになった。 大きく流れを変えたのが、12年に香港の合和実業(ホープウェル)グループが進出し、ニセコひらふ地区にラグジュアリーホテル「シャレーアイビーヒラフ」を建設したことだ。 合和実業はもともと、中国広東省の大都市である広州と深圳を結ぶ広深公路など高速道路の建設・運営を手がけていた巨大財閥である。 同社の成功を皮切りに、大規模な投資ラッシュが始まった。地元で別荘関連の開発ビジネスに携わる華人系の外国人男性、アレン氏(仮名)は言う。 「欧州のプロリーグのサッカー選手や、世界的IT企業の経営層といった億万長者が、こぞって土地や別荘を買っています。中国IT最大手『アリババ』の創業者のジャック・マーの別荘も、ニセコモイワの近くにあるそうですよ」 現在、ニセコの五大スキー場のうちで、日系資本は東急不動産HDが携わる「ニセコ東急グラン・ヒラフ」と、北海道の中央バス観光開発が関わる「ニセコアンヌプリ国際」のふたつ。 「ニセコHANAZONO」は、香港系のPCPDグループ、「ニセコビレッジ」がマレーシアのYTLコーポレーション、「ニセコモイワ」がシンガポールのチャータード・グループの運営下にある。 中小規模の海外企業も多数進出中だ。ニセコエリアのリゾートがある倶知安町とニセコ町の人口は、合計2万人余り。だが、両町に拠点を置く外国法人は1000社を超え、地方の市町村としてはケタ違いに多い。 海外勢の投資に陰りは見られないのか。アレン氏はこう言う。 「政治的事情で送金が難しくなったこともあり、中国大陸系の資本はコロナ禍を境に動かなくなりました。土地を買ったまま塩漬けの場所もある。ただ、それ以外の所、例えば香港の資本はコロナ中に凍結していたプロジェクトを再開しました。勢いは相変わらずですよ」 英語中心のリゾート地であるニセコで、中国大陸の存在感は意外と薄い。ニセコの基本的な図式は、香港人やシンガポール人が投資で「ハコ」を整備し、金持ちの欧米人を迎え入れるという形である。