サッカー元代表・大津祐樹が語る、投資とサッカーの共通点
アスリートでありながら、投資家としての意識を持つ「アスリート投資家」たちに、自らの資産管理や投資経験を語ってもらう連載「 アスリート投資家の流儀 」。柏レイソルを皮切りに、ボルシア・メンヘングラードバッハ(MG)、VVVフェンロ、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の合計5クラブでプレー。2023年限りで現役を引退し、現在は酒井宏樹選手(オークランドFC)とともに2019年に起業したASSISTの代表取締役社長(CEO)として多忙を極める大津祐樹さんの2回目です。 プロサッカー選手のキャリアをスタートした頃は、貯金や保険という資産運用しかしていなかったという大津さん。その方向性に変化が生じたのが、2011年夏にドイツに赴いてからでした。日本と欧州の物価や生活習慣の違いを目の当たりにするたび、「この商品はどちらの国で買ったほうがいいか」といった疑問を抱くようになり、それがTOTO(5332)の株購入につながったといいます。 その直感的かつ的確な投資行動で成功を収めた大津さんは、それからさまざまなアクションを起こしていきました。2019年には起業にも踏み切り、サッカー選手と実業家の二足のわらじも履くようになりました。そういった自身の歩みをさらに語っていただきました。 ■欧州挑戦の前に会社設立 ――大津さんは2011~2014年末まで欧州でプレーし、2015年1月から古巣の柏に戻られました。その時点ではどのような投資を行っていましたか? 大津:欧州挑戦に踏み切る前に個人の資産運用会社を作り、そこからTOTOの株を買い、4年間運用しました。それで金融や経済、投資の面白さや可能性を感じ、日本経済新聞を読んだり、経済のことを詳しい人の話を聞くようになりました。 メンターの経営者や起業家など幅広い人々から話を聞く機会に恵まれました。金融や不動産業界、IT関係、サービス業、旅行関係と、自分が興味ある業界の専門家に会っては、「最近どう?」と尋ねることを繰り返していましたね。 ――「人を大切にしなさい」という親御さんからの教えをダイレクトに生かし、行動を起こしていたんですね。 大津:そうですね(笑)。その情報収集を基に株投資も拡大させていきました。 銀行株なんかは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)、みずほフィナンシャルグループ(8411)などメガバンクすべてを買い付けましたね。不動産やIT、IPO企業も目をつけて投資しましたし、半導体関連、自動車関連も買った経験があります。 それをどう動かしたかという詳細は説明しきれないのですが、保有している銘柄もあれば、売却した銘柄もある。緻密に計算して判断しています。僕のポリシーは全体のポートフォリオで見るということなので、マイナスになることはないんです。その段階では貯金という概念はほとんどなくなった。手持ち資金は株やその他資産運用で回すようになりましたね。 ■世界と日本がつながっている ――株を本格的に始めたことで見えるものが変わったのではないですか? 大津:そうですね。サッカーと同じで、世界と日本がつながっているという感覚を抱くようになりました。「欧州で儲けている会社はなぜ成功しているのか?」と疑問を抱いて、自分から調べることも増えましたね。 日本にはポテンシャルのある会社がたくさんありますけど、海外でそこまでマーケットシェアを広げられないところもある。そういう会社を見ては、「もっとこういうふうに売り出したらいいのに・・・」と感じるケースも多くなりました。 ――大津さんのように海外クラブでプレーした経験があれば、各クラブのユニフォームや看板広告を出している企業に目がいきますよね。例えば、ボルシアMGの場合はドイツの投資信託企業・フラテックス、VVVフェンロの場合は物流会社のシーコムがメインスポンサーになっています。それを実際に調べる選手は少ないと思いますが、大津さんは進んで着目したということですね。 大津:そうかもしれません(笑)。クラブのスポンサーには注目しています。日本でも名古屋グランパスのメインスポンサーであるトヨタ自動車(7203)、横浜F・マリノスの日産自動車(7201)は海外でも評価が高いですし、買ったことがあります。ガンバ大阪のパナソニック ホールディングス(6752)にしてもそうですね。「僕ら選手が応援してもらっている会社だから、株を買って恩返しをする」というのも、投資の1つのやり方だと思います。 ――サッカー選手にとってはいちばん身近で納得できる投資法かもしれません。 大津:やっぱり身近なところは買いやすいですからね。僕の場合は業界に注目し、納得できる企業だと思えれば買うというのが通常の買い方です。それも投資本を読んだりしたわけではなく、自分なりに行き着いた方法なんです。 ただ、自分はマネーや投資のことは勉強だとは思っていません。サッカーも子どもの頃から好きでやってきましたけど、トレーニングだと思ったらうまくはならない。夢中になってやっていきたから、苦にならず取り組めたんだと思います。今、思い返すと、小学生時代のサッカー練習量は際限なかった。「自分がトレーニングしている」という感覚はいっさい持たずにやっていたから、結果的に質の高い練習ができて、プロになるところまでたどり着いたんです。 経済や投資に関しても似たような感覚で、成長できるから楽しいし、もっともっと知りたいと思う。まずは興味を持ち、自分から探求心を持って調べ、より効果が上がるように仕向けていけば、優れた投資家になれるのかなと僕は考えています。 ■そのときにできることをやる ――今のサッカー界は25~30歳になるとセカンドキャリア問題が語られるようになりますが、大津さんの考え方だと年齢は関係なく、好きなことにのめり込んでいくべきということになりますね。 大津:そうだと思います。僕自身は年齢で何をすべきとか、こうあるべきというのはないですし、ファーストキャリアとセカンドキャリアを別枠で考えることもありません。「そのときにできることをやっていく」というスタンスを貫けば、先が見えてくるんです。 投資についても、思い立ったときに「この会社は面白い」「将来性がありそう」と感じたところに1000円でもいいから投じてみればいい。それで自信がつけば少しずつ金額を増やしていけばいいんです。いきなり100万円とか1000万円とかムリをする必要はまったくない。「できる範囲からやる」というのが、リスクとうまく向き合う方法だと僕は考えます。 ――大津さんのような幅広いビジョンを持つ方は少ないので、若い世代からも何かしら相談を受けることがあるのではないですか? 大津:そういう相談も受けますが、僕は若すぎる選手には経済の勉強をする程度の少額投資で株式投資をすることを基本勧めています。それよりも自己投資に90%以上を向けたほうがいいと思います。プロアスリートでいられる時間は限られていますし、自分という投資先も大事にしたほうがいい。仕事のキャリアとスキルを上げて、収入も増えていかないと、投資ボリュームは上がりません。「自分はある程度、稼げるようになった」と思えた段階から、投資を本格的に始めたほうがいいですね。1年ごとに投資金額を増やしたり、リスク許容度を変化させたりするのも一案だと思います。 大津さんがいうように、プロアスリートは全国各地や世界各国を渡り歩く仕事。未知なる会社や業種に巡り合うチャンスも一般人より多いということになります。そこに目を向けられるかどうかでその後の人生が大きく変わってくる。それを彼は如実に示しているのではないでしょうか。 大津さんのような着眼点を持つ選手が増えれば、アスリートのマネーリテラシーは確実に上がるはず。彼の話を参考に、ぜひともそういう選手が増えてくれることを願いたいものです。 次回は2019年に起業したASSISTのビジネス、選手と実業家を掛け持ちした数年間、引退後の生活やビジョンなどについて深掘りしていきます。 元川 悦子(もとかわ・えつこ)/サッカージャーナリスト。1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
元川 悦子