甲子園球児を支える「父母会」って?「球児の母」の成長&葛藤を描く新刊が話題!作家・早見和真が俳優・山中崇と語る
高校野球の世界を「球児の母」視点から描いた新刊『アルプス席の母』が話題の作家、早見和真さんと、数々の話題作に出演し、昨年の日曜劇場『VIVANT』のアリ役も記憶に新しい、俳優の山中崇さん。 【写真9枚】作家・早見和真さん × 俳優・山中崇さん対談の様子を写真で見る。プライベートでも交流があるお2人の話は尽きず… 2人は早見さんの小説『イノセント・デイズ』のドラマ化で知り合い、プライベートでも交流があるそうです。ともに46歳と同い年で、子育て中の父親でもある2人が、作品に描かれる親子像から、親と自分、自分と子ども……といったさまざまな親子のことを語り合いました。
“男の子のお母さん”ならではの葛藤を抱く母親の物語
息子が家からいなくなる寂しさ、強豪校を支える父母会という未知の世界……。母親のさまざまな葛藤が描かれる本作ですが、事前に読んだ書店員さんなどから大きな反響があり、なんと発売前に重版が決定。 テレビ番組『王様のブランチ』でも取り上げられ、発売から10日で4刷目の重版が決まるなど、話題を集めています。 物語は、はっとするような言葉から始まります。 山中崇(以下、山中)「ちょっと1行目を読んでみますか。(本を開いて)『本当は女の子のお母さんになりたかった』」 早見和真(以下、早見)「これ、新聞連載時は後半になってから登場した言葉だったんですよ。でも、この言葉が浮かんだとき、物語の背骨ができたような気がしました。それで改稿するときに1行目に持ってきたんです。男の子を育てるのと、女の子を育てるのとでは、母親としての人生がまるで変わりますよね」 山中「そうですね。例えば息子の彼女とのシーンも、男の子のお母さんならではの葛藤があるのかなと思って面白かったです。 読んでいて感じたのは、子どもの成長とは違うペースで、母親自身も成長しているんだということ。慣れない地に移り住んで、少しずつ馴染んでいくところとか、息子の大阪弁や、『ママ』から『お母さん』、そして『おかん』と変わっていく呼び方を、葛藤しながらも少しずつ受け入れていくところとか……」 早見「母の成長は、この作品で描きたかったことでした。主人公の菜々子は、息子がまだ小さいうちに夫を亡くし、母一人子一人という環境になります。必然的に、固く絆が結ばれてしまう。でも、一方で“男の子”という生態をなかなか理解できないし、息子にぎょっとさせられることばかり。必死に子どもとの日々を過ごす過程で、溢れ出すような思いがこの人にはあるんじゃないかと。 僕はいつも、自分と世代の近い、30代から40代の男女に刺さる物語を書いているつもりなのですが、子育てに仕事にと忙しいその世代が、今、小説というものからもっとも遠くにいるような気もします。ただ今回の本では、その世代の人たち―特に男の子を育てているお母さん方を強引に振り向かせたいと思いました」 山中「読んでいて、コロナ禍で甲子園への夢を断たれてしまった球児たちの姿も連想しました。早見さんが書いた『あの夏の正解』がありましたよね。あのときの球児たち、そして、その球児たちを支えてきた親たちに向けての、早見さんの優しい眼差しを感じて……」 早見「コロナ禍当時、僕は球児やその親御さんを取材していたのですが、あのとき球児たちが親に伝えていた『ありがとう』、そして親たちからの『ありがとう』―それはきっと『夢を見させてくれてありがとう』という意味だと思うんですけど、あの感謝は本物だったと思いました。 『高校球児の親』はメディアを通じて記号的に描かれることが多いのですが、ただ“見守る”だけでない母親の姿を描いてみたかったんです。高校野球というあの特殊なコミュニティを目の当たりにして、疑問を感じながらも、“息子を人質に取られているつもりで”折り合っていく母親をね」