考察『不適切にもほどがある!』2話 令和の正論VS昭和の極論
正論を吐く現代人に1986年からタイムスリップしてきた市郎(阿部サダヲ)が対抗する!『不適切にもほどがある!』(TBS金曜夜10時~)2話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
市郎の発する「気持ち悪っ」とは
「正論しか言わない人なんですけど、ニューヨークの夜景がキレイで、なんかいいこと言ってるような気がして」 犬島渚(仲里依紗)が夫である谷口(柿澤勇人)との出会いを語るなかでこぼしたセリフだ。正論を言う人だったけど、夜景に惑わされて結婚してしまったというわけだ。渚の中では最初から「正論≠いいこと」なのが面白い。後半では夫に直接「あんたは正しいだけで心がない」とも言い放つ。 このドラマでは、1986年からタイムスリップしてきた小川市郎(阿部サダヲ)の、現代では常識外れとされる言動や振る舞いに現代の人々が衝撃を受けたり、気付かされたりする。2話でも働き方改革に「働き方ってがむしゃらと馬車馬以外にあるのかね?」、性的同意には「部屋に上げた時点で合意みてえなもんだろ」と、そこだけ切り取ると現代では完全にNGとされる発言をしている。働き方改革も性的同意も、もちろん今後もっと推進されるべきだし、市郎のような価値観は今となってはとんでもないことだ。(そういえば2話でもちゃんと冒頭に注意テロップが出て、さらには娘・純子(河合優実)のセリフに「あくまで昭和における個人の価値観です」とも表示されていた)。けれども、その極論と対比することで、「正論」だけ、言葉だけが独り歩きして、かえってひずみやねじれが起こってしまっていたり、実態が伴っていなかったりする現状が見えてくる。 子どもを預けた会社の託児所から度々呼び出されつつ、シフト制でやってくる後輩に仕事を教えるので手一杯になってしまう渚。本当にやりたい仕事の企画書は上司が読んでくれず、それでいて夫も上司も口先だけ「一人で抱え込まないでね、僕にできることは何でも言ってね」と言う。 「お前に何ができるか私お前じゃないから分かんないし」「お前に何ができるだろうって考えるミッション新たに生まれてるし」 言葉だけはやさしいけれどかえって負担を強いている男たちに疲弊する渚。一方、市郎は渚がリクエストしたわけでもない焼きうどんを作ってみせる。それが彼女にヒットするかはわからないけれど、市郎は彼なりに考えて「俺にできること」をやっているわけだ。 さらには助けを求めて電話をかけてきた渚に「あんたが今してほしいことが俺にできることだよ」と声をかけ、頼まれたおしりふきを買って行くだけじゃなく、渚の子どものおむつ替えもしている。これについてはもう、昭和だからとか現代だからとかではなく、市郎がそういう人なんだろう。 市郎は現代の人々の話を聞いて、たびたび「気持ち悪っ」と発する。「一人で抱え込まないでね」と夫が言ってくれたと渚が語ったとき。その谷口が同調圧力について語った(というか歌い踊った)とき。正しいとされる言葉や空気によって誰かがないがしろにされている状況は、市郎にとっては、渚にとっても、そしてその境遇にあったら誰にとっても「気持ち悪い」ものなのかもしれない。