考察『不適切にもほどがある!』2話 令和の正論VS昭和の極論
思い出が全部入っている袋
2話では市郎と娘・純子との親子愛が垣間見える描写もあった。亡くなった妻(蛙亭イワクラ)との手紙や家族写真を大切に持ち歩き、「女房と約束したからね。高校卒業するまでは変な虫がつかないように俺が見張るって」「尻軽だけどバカじゃねえんだ」と言う市郎。妻を亡くして毎日泣いていた父を見て「だから今は私がグレて気をそらしてやってる感じ」「高校卒業するまでは一緒にいてあげてってママに頼まれたし」という純子。80年代を象徴するような軽薄なツッパリの女の子に見えていた純子の魅力がどんどん出てきた。 市郎はスマホを見ながら思い出話をする渚に「全部その中に入ってんのね、思い出」と言ったが、写真やへその緒の入った市郎の巾着袋を見た秋津(磯村勇斗)も「全部その袋の中に入ってるんですね、思い出」と言っていた。思い出を振り返るという行為は、時代を超えて変わらない人の営みだ。 ミュージカルパートは2話にして「待ってました!」という気持ちにさせられた。市郎の歌う尾崎豊風の「米寿の夜」も、ちあきなおみ「四つのお願い」風の渚の歌も、そして柿澤勇人のターンが美しい同調圧力の歌も最高。エンターテイメントでありながら歌詞にそれぞれの思いが乗っていて、違和感なくミュージカルだ。
井上のタイムマシン?密度の濃い1時間
タイムマシンを発明した教授(三宅弘城)が1話で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』についての作文を読んだ井上と同じ苗字=同一人物? だったり、サカエ(吉田羊)の「深刻な顔は生まれつき」、渚の「迷ったときは八嶋智人より上か下か」や「あんたAIっすか? 夫GPTっすか?」など、セリフだけを取り出してみても面白い要素がふんだんに盛り込まれていたり、「タイマンはったらダチ」や宜保愛子の名前など昭和要素が懐かしかったりと、とにかく1時間の密度が濃い。 3話の予告では、バラエティ番組が舞台になっている。どうやら磯村勇斗がムッチ先輩と秋津の二役をやっている意味が解明されそうで、今から楽しみだ。 ●番組情報 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS) 脚本:宮藤官九郎 演出:金子文紀、坂上卓哉、古林淳太郎、渡部篤史、井村太一 出演:阿部サダヲ、仲里依紗、吉田羊、磯村勇斗 他 プロデュース:磯山晶、勝野逸未、天宮沙恵子 主題歌:Creepy Nuts『二度寝』 ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。 Edit_Yukiko Arai
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