ひき逃げか否か…中3男子死亡事故 最高裁で弁論 検察側「東京高裁の無罪を破棄するよう求める」被告側「改めて無罪主張」判決の言い渡し日は追って指定 両親は「一つの光が差してはいる」「救護義務違反が認められることを願っている」
テレビ信州
9年前、佐久市で当時中学3年の和田樹生さんが車にはねられて亡くなった事故。ひき逃げ=すなわち、救護義務違反だったのかを巡り、13日、最高裁で弁論が開かれました。 本来、事故があったときには、「ただちに」負傷者を救護するよう定められていますが、被告は事故の後、飲酒運転の発覚を避けてコンビニに行き、口臭防止用品を買って、服用していました。この行動が、ひき逃げだったのかが問われ、一審は実刑判決、二審は逆転無罪で解釈が分かれています。 最高裁の弁論は午後2時からおよそ30分間開かれ、検察側と被告側の意見は真っ向から対立しました。弁論は、最高裁が結論を変えるのに必要な手続きであることから、二審の無罪判決が見直される可能性があります。 開廷前には傍聴を希望する人が列をつくりました。刑法を専門とする大学教授、北海道や岡山県で起きた交通事故の遺族などが訪れ、注目を集めています。 事故は2015年3月23日、午後10時7分に佐久市で発生。高校入学を目前に控え、塾の帰り道だった和田樹生さんが車にはねられ、亡くなりました。 車を運転していた池田忠正被告はこれまでの裁判で、飲酒運転の発覚を避けるため、口臭防止用品を買いにコンビニに行ったことを認めた上で、「事故現場から逃げるつもりはなかった」と主張しています。 ■一審判決 おととし、長野地裁で開かれた一審では、「自己保身を優先した意思決定は身勝手かつ自己中心的なもので強く非難されるべき」と、ただちに救護を行わなかったとして、懲役6か月の実刑判決が出されました。 ■ 二審判決■ この判決を不服とした被告が控訴して、去年開かれた二審の東京高裁では、「救護のためではないものの、時間は1分余りで、その後、人工呼吸をしていたことに照らすと、救護義務の意思は保持し続けていた」とし、「ただちに」救護を行わなかったと評価することはできないとして、逆転無罪の判決を言い渡しました。 ■13日最高裁 検察側の上告を受け、13日午後2時から開かれた最高裁弁論。 検察側は、過去の3つの判例を示した上で、救護以外の行動に「一定の時間を費やした時点で救護義務に反している」として、東京高裁が出した無罪を破棄し、最高裁は、高裁への差し戻しではなく、自ら判決を出すよう求めました。 一方、被告側は、検察側が出した判例が、「問題の所在が全く異なっている」として、今回、問われている事故には該当しないため、別の判例を示してあらためて無罪を主張しました。 弁論を終えた両親は。 樹生さんの母 和田真理さん 「ずっと樹生は私たちの近くでこの裁判の行方というものを見守ってくれいたと思うんです。私たちと一緒に傍聴してほしい。家族の心を一つにして救護義務違反が認められることを願って樹生も一緒に傍聴しました」 樹生さんの父 和田善光さん 「この弁論の期日が開催されたということについては一つの光が差してはいると。ただ、まだ弁論期日が開催されただけでありまして、判決が下されたわけでもない。/われわれは少なくとも破棄自判を願っているわけですけども」 13日の弁論はあくまで最高裁が、検察側と被告側の双方から意見を聞いた、ということです。 最高裁は弁論の中で、判決の言い渡し日は追って指定するとしています。 刑事法の専門家などによりますと、上告を受けた刑事事件のうち、年間1600件ほど結論が出ますが、そのほとんどが、棄却や取り下げとなり、このように弁論を開いた結果、二審判決を破棄して高裁への差し戻しや最高裁自らが判決を出すのは、全体の1%にも満たない、数少ない例だということです。 事故から、まもなく10年。和田樹生さんの両親、善光さんと真理さんは傍聴に訪れていましたが、被告の姿はありませんでした。 母・真理さんは、樹生さんの遺影を膝の上に置いて、双方の弁論を聞き、弁論が閉じられるタイミングでは、誰よりも深く、長く頭を下げていました。救護義務違反をどう解釈するか、最高裁の判断が注目されます。 報告:塩澤涼記者