早田ひなの真骨頂。盤石の仕上がりを見せ、ベスト4進出。平野美宇は堂々のベスト8。2人の激闘を紐解く
パリ五輪、熱狂とともに盛り上がりを見せている卓球・女子シングルス。平野美宇は堂々のベスト8入り。両ハンドから繰り出される持ち前の“ハリケーン”は緊張が走るオリンピックの大舞台でも発揮され、むしろ勢いは増している印象すらあった。今大会における“台風の目”でありながらも、エースの早田ひなという頼れる存在もあり、のびのびとプレーできている印象もあった。一方の早田も磐石の試合を続けてベスト4進出。試合中も笑顔を見せ、この大舞台を最大限楽しんでいる姿が印象的だ。改めてここまでの2人の激闘を振り返りたい。 (文=本島修司、写真=ロイター/アフロ)
“台風の目”と目された平野、誇れる堂々のベスト8
女子シングルス準々決勝。ベスト8決定戦。平野の相手はインドのマニカ・バトラ。「インド」と聞くだけで、不気味さが漂う。そう、卓球ファンの誰もが、2024年2月に行われた世界卓球団体戦の女子団体を思い出す。この大会、卓球大国の中国は、初戦でインドと対戦。その中で、世界ランク1位のエース孫頴莎がインドの世界ランク155位のアヒカ・ムカルジーに敗れるという波乱が起きた。 その際、ムカルジーが見せた独特の変則スタイルは大きな話題となった。バック面から生み出されるボールが、とても独特だったのだ。「アンチラバー」というラバーによる効果だった。この一戦でアンチラバーの使い手であるムカルジーがかけた「魔法」もあり、インド勢は「変化球の卓球」というイメージが強い。さらには、異質ラバーを使いこなす、粘り強い、猛練習の形跡もうかがえる。 そしてこのバトラもまた、バック面にツブ高を貼った選手だった。ベスト8を懸けた3回戦は、序盤から平野にとっても大変な戦いだった。ツブ高特有の「カット性質ショート」に、切れ味がある。そして安定感がある。この技術はミスが少ない技でもある。それにワンテンポ遅れた平野のボールが浮いてしまい、そこをバトラがフォアの裏ラバーでたたきこんでくる、という場面が何度も見られた。これが、インド勢が使う「魔法」と言える。アンチラバーも、ツブ高と同じような性能で「ナックルや無回転」にしたり「相手の回転を利用して残して返球」したりする。 このツブ高を使う選手は、世界を見渡せば少なくない。しかし、インド勢のすごさはその精度。とにかく乱れなく、ミスなく、アンチラバーやツブ高ラバーなど異質系のラバーを使いこなしてくる。 一方の平野も、パリ五輪出場を勝ち取るまでの長い激闘でさらなる成長を手にした。また、ともに4-0の快勝で勝ち上がったパリ五輪での1、2回戦を見ていると、エースとしての期待を早田ひなが一身に背負い、平野自身は“台風の目”と目されていることで、必要以上の重圧を感じることなくのびのびとプレーできているようにも見えた。 迎えたバトラとの準々決勝、出足は劣勢だった平野。しかし、中盤からハリケーンが目を覚ました。 第2ゲームでは2-6とリードされてから、追いつく試合展開に。そこから、相手のフォアの裏ラバーを攻める、戦術の変更。ここが素晴らしかった。この大舞台でコースを変えても、ハリケーンが乱れなかった。 まったくミスがない。フォアの内に持ち込み、攻撃力の差を見せつける展開を生み出し、スピードで圧倒。4ゲーム目、5ゲーム目も接戦となったが「台から出る長さのサーブ」を、キッチリと“引っかけていく”ループドライブで先手を取った。ベスト8進出を決めた。