『宙わたる教室』小林虎之介×南出凌嘉が紡ぎ出す真っ直ぐな思い 心を支える“無重力空間”
学会で発表する研究テーマを「火星クレーターの再現」に決めた科学部。実験にあたって火星の環境を再現しようとするが、問題は“重力”だ。 【写真】コンピューター部の要(南出凌嘉)と科学部の岳人(小林虎之介) 部員たちは地球で火星と同じ重力を作るのはさすがに無理だと諦めかけるが、藤竹(窪田正孝)の「皆さんもふだんからいろんな重力を体験してるはずですよ」という言葉をヒントに、校内で最も天井の高いコンピューター準備室に実験装置を設置しようとする。 だが、全日制のコンピューター部の部長・要(南出凌嘉)は部屋を譲ろうとしない。頑なな要の心を溶かしたのは、岳人(小林虎之介)だった。 全日制と定時制という異なる環境で生きる要と岳人が“エンカウント”した『宙わたる教室』(NHK総合)第6話。このエピソード全体を通して印象的だったのは、岳人の心の成長だ。一見、何の共通点もない岳人と要を繋いだのは一枚のグラフ。昼と夜とでたまたま同じ机を使っていた二人は、岳人が机に入れたままにしていた実験データの用紙上で交流を始めた。 解析が不十分なデータを“ゴミ”と吐き捨てられた岳人は要に会うため、コンピューター部の部室を訪れる。ちなみにエンカウントとはゲーム用語で敵と遭遇することを意味するが、岳人は別に殴り込みにいったわけではない。要が書いた計算式の意味をただ純粋に知りたかっただけ。要の説明を興味深く聞いた岳人は「やっぱさすがだね、全日制は」と褒める。世間にうまく溶け込めないことがコンプレックスで、自分にはないものに憧れ、常にイライラしていた頃の岳人からは考えられない台詞だ。 偶然出会った要が自分たちが借りようとしている部屋の主だと知っても、岳人は無理強いをしない。何のためにその部屋が必要なのかを納得いくまで説明する。岳人を変えたのは藤竹だ。前例がないという理由で科学コンクールへの出場を拒否され、「そんなの理由にならない!」と声を荒げた藤竹。初めて自分のために怒ってくれた藤竹を岳人は信頼し、その想いに答えようとしている。あのとき藤竹の表情ではなく、その怒号を聞いた岳人たちの表情をカメラに写した本当の理由に気づき、改めて演出の繊細さに驚かされた。 真剣な思いは人を変える。「生まれて初めて真剣なんだよ」と頭を下げた岳人のまっすぐで強い思いもまた、要の心を動かした。だが、要にもどうしても部屋を譲れない理由がある。両親が離婚して以来、部屋に引きこもっている弟が暴れた際に母親が怪我をした場面を見て、入試で本来の力を発揮できなかった要。不本意にも希望していた学校より偏差値の低い高校に通うことになった要は他の生徒たちを見下し、情報オリンピックで自分がみんなと違って優秀だと証明することで心を保っていた。 そんな要が退校時間ギリギリまでプログラミングに明け暮れていた部屋を、科学部が必要としていたのは大掛かりな重力可変装置を設置するため。仕組みはケーブルの切れたエレベーターと同じで、滑車に吊り下げられた箱が落下するとき、内部は一瞬だけ無重力状態になる。その落下速度を調整することで、火星の重力を再現しようというわけだ。