「不夜城」の電通が残業を6割削減、実現のカギは“意外な人物”だった!
● オフィスをながらく回してきた「主」の プライドが改革に立ちはだかる 「現場の主」が、古い仲間だったあなたに、なぜ反対するのか。 それは「何をいまさら」という憤りなのです。 時短改革は、それまで《現場》が積み上げ、編み上げてきた業務プロセスを否定する行為です。中でも「主」のプライドをいたく傷つけるものです。 「次から次とダメなやつしか経営者にならない、こんなポンコツな会社だけれども、先輩や自分たちが丁寧に耕してきた『畑』だけは、自分の職歴の最後までは、しっかりと維持してみせる」 そのプライドを持った方々に伝言ゲームで「このたびわが社は時短に取り組むことになった。ついては現場で知恵を絞ってもらいたい、以上」などと言い放ったら、逆効果もいいところです。 社長が自ら「主」と1対1で会って、面と向かって話す。そこからです。 その際、すべきことはただ1つ。率直に謝ることです。これまでの経営陣の「丸投げの非」を認めるのです。 そのうえで、以下の3つを強調してください。 (1)社長である私の責任で、私が指揮をとって時短改革を進めます。けっして誰かに丸投げするようなことはしません。 (2)とはいえ長年、(たとえば)経理業務を仕切ってきた〇〇さんの知見がなければ、到底改革はできない。どうか、お知恵を貸してください。これまでずっと、「こうだったらいいのに」とか「こんなの本当に無意味、やめればいいのに」と思ってこられたことを、すべて教えてください。 (3)部署をとりまとめて会社に協力していただくようにするのは、あくまでも部門長の仕事です。とりまとめ役を買って出てほしいなどとは、けっして言いません。そんなリスクをあなた個人に負わせることはしません。
● 社員すべてをあつめた「集会」で 不満を吐き出せることが改革の第一歩 「主」にとりまとめのリスクを背負わせないためにも、部署の社員全員との「集会」を開催します。「時短プロジェクト全体説明会」「実務推進者説明会」などプロジェクトの説明会のことです。 これは、「社の決定事項を下達するための儀式」とはまったく違います。 本来は、社長のあなたがすべての部署の集会で語りかけるべきでしょう。しかし、どうしても1人では回り切れない場合には、社長の代わりにそこに立つ幹部たちに、どうコミュニケーションすべきかを教え込まなければなりません。けっして幹部個人のアドリブに任せてはいけない。 これはかなり重要なポイントで、ここで幹部が失言すると、その部門だけでなく全社に瞬く間に拡散し、「あ~、やっぱり」となります。 説明会が会社側の幹部や担当者に対する「つるし上げ集会」になる場合も多いです。そこでうろたえて、つい、「これまでの現場のやり方にムダがあった」などと口走りそうな幹部は、社員の前に出してはいけません。 時短改革は、従来の業務の否定にほかなりません。 しかし、悪いのはムダだらけの業務プロセスを積み上げて編み上げてしまった現場ではなく、業務プロセスづくりをそれぞれのオフィス現場に丸投げしてきた歴代の経営陣です。 そこをごまかさず、きっちりと説明しきれる方でなければ、壇上に上がらせてはいけません。 私たちも、電通では部署ごとに何度もプロジェクト説明会を開いてもらいました。 重要なことは、時間配分です。説明は長くても20分、質疑応答に40分かけるつもりで行いましょう。 そして集まったみなさんから、「会社はこれまで業務をわれわれ現場に丸投げしてきたのに、急に協力しろとはどういうことか?」「業務のムダを現場のせいにして、また経営陣だけ逃げ切ろうと思っていないか?」「ずいぶん身勝手だと思わないか?」といった追及の声を、どんどんあげてもらいましょう。 こういった現場の実情を、説明会という場をもって、あえて言葉にして吐き出してもらってください。これは改革プロセスの初期にかならず通らなければならない、重要な関門です。
小柳はじめ