「デイリーポータルZ」林さんが読み込むマンガとは? ひとひねりした企画を生む発想はここから…⁉
装丁をギャグにしてもいい! 世の中を席巻したベストセラーマンガ
3冊目は1995年に出版されて、ベストセラーとなった吉田戦車さんのマンガ。「このマンガでは祖父江慎さんによる装丁も楽しんでほしい」と林さん。 ■ [3冊目] 『伝染(うつ)るんです。』(吉田戦車:著 小学館:刊) まずは装丁に注目してほしい。帯に「75年は吉田のものだ」とあるけれど、出版されたのは95年。途中で白紙ページが入っていたり、本の価格を示す980円という印刷がずれていたりと、わざと間違いを忍び込ませた装丁になっている。 ┌────────── 表現として、これくらい自由度を上げてもいいんだなと感動します。マンガの内容も今の説明過剰なコンテンツに比べると突き放しているところがあります。吉田戦車はナンセンスマンガの旗手と言われますが、ナンセンスとは感じないですね。むしろ、読者に意味を考えさせるマンガだと思います。 「タンバリンでタクシーをつかまえる」という話が出てきますが、デイリーポータルZはここまではやらないものの近いコンテンツがあります。例えば、「影だけ悪魔の人になりたい」がそうです。『伝染るんです。』と同じようなことを生でやるのがデイリーポータルZなのかなと思います(林さん) └──────────
どこからでも読める、辞書や辞典の類を読むのが好き
せっかくの機会なので、マンガ以外の書籍についてもオススメを聞いてみた。 ■ [4冊目] アシモフの雑学コレクション(アイザック・アシモフ:著 星新一:訳 新潮社:刊) SF作家のアシモフの雑学を星新一が翻訳した1冊だ。1行から数行の雑学が淡々と記載されているが、その一つひとつに発見がある。 ┌────────── この本が好きすぎて、人に3回くらいプレゼントしています。「恐竜の中には、今の鶏くらいの大きさのものもいた」「古代エジプトでは、王や王子が死ぬと大量の金を埋葬した。しかし、墓泥棒たちがそれを社会へ戻し、金の消失が防げた」「一人っ子で大統領になったものは、いない」とか、ポツンと雑学が書いてあって、翻訳も余韻があって、事実が書いてあるだけなのに、詩みたいだなと感じます(林さん) └────────── 本書には、アシモフがSF小説を書くにあたって調べたことも載っていて、普通なら解説がつきそうだが、そういうものが一切ない。さらに、“驚きの新事実!”、“絶対にためになる”といった、煽るようなタイトルもなく、「淡々としているところが好き」だという林さん。無人島に持っていくならこの本を選ぶそうだ。 ■ [5冊目] 『当った予言、外れた予言』(ジョン・マローン:著 古賀林幸:訳 文藝春秋:刊) 1999年に出版された書籍で、予言された年と、それが当たったのか、外れたのかがまとまっている。 ┌────────── 当たった予言は注目されますが、はずれた予言はめったに目にしない。そうした「はずれ」もまとめられているのがおもしろいですね(林さん) └────────── ■ [6冊目] 『罵詈雑言辞典』(奥山益朗:編 東京堂出版:刊) 「辞典が好きだ」という林さん。これは人を罵倒する言葉の辞典だ。 ┌────────── 方言や昔の言葉も載っていて、知らない言葉がたくさんあります。あじゃらしい、おひゃらかす、ぞろっぺぇ、とっちりとんまなど、ランダムにページを開いて読んでいます(林さん) └────────── ■ [7冊目] 『捜査・公判のための実務用語・略語・隠語辞典』(城裕一郎:著 立花書房:刊) こちらも辞典で、警察や検察が使う言葉が載っている。 ┌────────── 天ぷらは、偽物のナンバープレートのこと。しけばりは見張りのこと。この言葉にこういう意味があるんだなと思うと楽しいですね(林さん) └────────── ◇ ◇ ◇ 今回は、マンガを中心に選書してもらったが、すべて企画のネタになる、アイデアが生まれるという発想で選んでいた林さん。メディアを22年続けて、コンテンツを作り続けている発想の源が見えた気がした。マンガ以外の本も、読み物というよりも、発想がひろがりそうな辞典や雑学で、根っからの企画人間だと感じるリストになった。 林 雄司(はやし ゆうじ) デイリーポータルZ株式会社 代表 1971年東京生まれ。1996年からサイト制作をはじめて2002年にデイリーポータルZ開始。 それ以来ずっと編集長。 編著書は『死ぬかと思った』シリーズ(アスペクト)など。