9度目の受験、34歳で公認会計士試験に合格した元阪神投手の述懐 「試験勉強とピッチャーには共通点がある」
9度目の受験、34歳で公認会計士試験に合格
まずは飲食でのアルバイトを続けながら、公認会計士を目指した。その後、少しでも受験勉強に専念できるように、生活を安定させるために資格試験予備校に就職、会社員となり、夜型から朝型の勉強スタイルに変更した。 「会社員となったことで、生活に保険をかけることができました。自分でも、“すぐには受からないだろう”と思っていたので、最低限の保証を得たことで、じっくりと受験勉強に励む覚悟ができました。結局、その後もなかなか会計士の試験には受からなかったけど、日商簿記検定1級に合格したり、税理士試験の簿記論という科目で合格したり、少しずつ目標に近づいている手応えを感じられたのもよかったと思います」 遅々とした歩みかもしれないけれど、少しずつ、そして着実に成果が出ていた。それでも、もちろん心が折れそうになることも、挫けそうになることもあったはずだ。しかし、奥村はキッパリと言い切った。 「もちろん、“もうやめようかな……”と思うこともありました。でも、彼女の支えもあったし、“この資格を取らないと、この先の人生はないんだ。だから、受かるまではやめられないんだ”と、腹を括れたことが大きかったと思いますね」 9度目の受験で合格したとき、奥村は34歳となっていた。ようやく悲願を達成した奥村は、「受験勉強と野球との相関性」に気がついたという。 「公認会計士の試験は、論文形式とマークシートタイプの短答式があります。短答式は7割正解すれば合格ラインに到達します。つまり、3割は間違えてもいいわけです。合格する前の僕は、満点を取りに行く気でいながら、ケアレスミスが多かった。これって、ピッチャーがフォアボールを与えて自滅する感覚と似ていると思いました。基礎的な問題はしっかり正解する。これはアウトにできるバッターをしっかりと抑えること。その上で多少、ランナーを出してもいいから、要所できちんと抑えること。それが大事なんだと気づきました」 現在では公認会計士としての仕事をしながら、アスリートたちのセカンドキャリアを支援する一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構で理事も務めている奥村は、数々の事例を目の当たりにしてきたからこそ、「一流のアスリートは頭がいい」と力説する。 「大谷翔平くんがいい例ですけれど、アスリートというのは目指すべきゴールをきちんと設定した上で、足りない部分をいかに補えばいいのか、常に頭を使っています。もちろん、長期的なことだけでなく、短期的なことでもそうです。バッターボックスに入って、速球に差し込まれていたらバットを短く持ってみたり、少しだけポイントを前にしてみたり、瞬時に正しいアプローチ方法を探し出します。自分のようなレベルの選手ですらそうでした。よく、“スポーツ選手は脳みそが筋肉でできている”と言われるけれど、決してそんなことはない。みんなロジカルに物事を考えながら取り組んでいる。僕は、そう思っています」