<「大虐殺」の「予行演習」!?>ロシアの関与疑われるデマの拡散で反移民暴動が起きたイギリス 背景にある「グレート・リプレイスメント」陰謀論とは何か?
日本における陰謀論の拡大と「神真都Q」の出現
陰謀論言説の拡散や陰謀論者の増加は、遠い外国の問題ではない。この数年、新型コロナウイルスによるパンデミックやウクライナ戦争を背景に、日本でも陰謀論が影響力を強めているのである。 日本では、Qアノンの影響を受けたQAJF(Q Army Japan Flynn)という団体が2019年から活動していたが、アメリカ本家のQアノンによる2021年の議事堂襲撃に関連してメンバーのツイッターアカウントが凍結されたことをきっかけに、この団体は勢いを失ってしまったと分析されている。しかし、これで日本国内のQアノン勢力自体が衰えたわけではなかった。 QAJFの失速と入れ替わるように台頭してきたのが、2021年10月ごろから形成され拡大を始めた「神真都(やまと)Q」と呼ばれる陰謀論団体である。同団体は、Qアノンによるディープ・ステート関連の陰謀論を軸としつつ、反ワクチン思想やスピリチュアル思想を巧みに組み合わせて活動を拡大していった。 同団体の結成宣言では、「悪の権化イルミナティ、サタニスト、DSグローバル組織、最悪最強巨大権力支配から「多くの命、子どもたち、世界」を救い守る」と謳われており、トランプ支持も表明している。さらにはそこに、レプティリアンと呼ばれる人型爬虫類の異星人概念や、学術的に立証されていない漢字以前の日本固有の文字とされる神代文字の継承、光の戦士や光の家族といった、オカルトやスピリチュアルの要素も垣間見える。 近年の陰謀論団体は、スピリチュアル要素を組み込むことでそのような思想に親和性のある人々も団体参加に誘引し、また既存の宗教団体や霊性運動と結合する傾向が見られる。前述したドイツのライヒスビュルガーについても、宗教やスピリチュアル運動との接近が確認されている。そのような陰謀論とスピリチュアリティの混淆については、コンスピリチュアリティ(コンスピラシー〈陰謀論〉とスピリチュアリティ〈霊性〉を組み合わせた語)という概念が提唱されるようになっている。 神真都Qについては、正確な会員数は不明であるが、神真都Qが運営するLINEのオープンチャットには2022年時点で約1万3000人が登録しており、同年1月のデモでは全国で約6000人の動員数を誇った。懸念すべき点は、彼らがワクチン接種会場への襲撃など、現実世界での実力行使に踏み込んでいることである。2022年4月には、新型コロナウイルスワクチンの接種を行っていた診療所に不法侵入した疑いで5人の逮捕者を出し、同年末には有罪判決を受けている。 さらには、Qアノン直系の団体ではないが、このようなコンスピリチュアリティの流れを汲む日本最大の団体として、参政党の主張にも注意を払う必要があるだろう。党の主張や党役員の発言には、ユダヤ系陰謀論やワクチン陰謀論、スピリチュアル要素などが確認されていることが先行の調査研究で指摘されている。また、SNS上ではQアノンのディープ・ステート陰謀論を肯定、支持していると思われるような発言をしている議員も確認できる。 同党は2024年10月の衆議院選挙では3議席を獲得し、地方議員数は138人(2024年9月現在)、党員・サポーター数は2022年末時点で約10万4000人に上っている。国会や地方議会に議席を持つ政党が、このような外国からの影響力工作と親和性のある主張を繰り広げていることは憂慮すべき事態である。 また、インターネットセキュリティ企業である株式会社Sola.com や東京大学の鳥海不二夫教授の分析では、ツイッターなどのSNS上でQアノンに共鳴した内容や新型コロナウイルスのワクチンをめぐる誤情報を発信していたクラスタが、ウクライナ侵攻では親露的な投稿を拡散しているということが判明している。 各調査によれば、「ウクライナにはアメリカ主導の生物兵器研究所がある」という投稿が900万件以上拡散され、「ウクライナ政府はネオナチ」という228件の投稿は、約1万900件のアカウントにより3万回以上リツイートされていた。こうした調査から、SNS上での陰謀論言説の広がりやすさ、これらの言説に親和性のあるSNSユーザーの拡大、そしてこうしたクラスタに外国からのアクターが関与していないかどうか、といった点には注意すべきである。 過去には、2016年6月のブレグジット(イギリスのヨーロッパ連合〈EU〉離脱)についての国民投票の際にディスインフォメーションの流布に関与していたロシア系アカウントが、同年11月のアメリカ大統領選挙の際のディスインフォメーション流布に再利用されていた事例もある。日本のSNS空間で陰謀論拡散に寄与していた外国系アカウントが、類似したトピックで活動していないかどうかなど、陰謀論をはじめとして影響力工作を受けやすいナラティブの国内SNS動向は注意してモニタリングしていく必要がある。 また、前述した陰謀論関連の団体に所属していなかったとしても、その言論に影響を受けている人数は決して少なくはない。中露のナラティブに親和的なアカウントが、今後の日本社会に与える影響に留意すべきである。 また、2024年10月からレプリコンワクチンの接種が始まったことで、反ワクチン運動が再燃しており、このワクチンを取り扱うクリニックに対して、脅迫や誹謗中傷などの実力行使が増加してきている。 各国で反ワクチンや新型コロナウイルス政策への懐疑から体制破壊的運動が激化した前例や、前述したような反ワクチンと親露的言説の重なりを踏まえると、こうした陰謀論的思想に基づく運動の活発化には、それが一見、安全保障と関係ないように見える内容でも、注意が必要であろう。 ※本稿の一部においては、以下の拙稿をもとに加筆修正を行っている。 長迫智子「認知領域の戦いにおける陰謀論の脅威―海外における体制破壊事案から日本における陰謀論情勢を考える」『笹川平和財団国際情報ネットワーク分析IINA』笹川平和財団、2023年7月19日。https://www.spf.org/iina/articles/nagasako_03.html
長迫智子