突き抜けた作家性とメガヒットを両立させる鬼才クリストファー・ノーラン監督作品まとめ
5.『プレステージ』(06) 128分
衝撃的な“オチ”が話題を集めた歴史サスペンス。19世紀末の英ロンドンを舞台に、2人の奇術師が憎みあい、激しい対決を繰り広げるさまを描く。『バットマン ビギンズ』のクリスチャン・ベールと、『X-MEN』シリーズでブレイクしたヒュー・ジャックマンが共演した。図らずも、DC×マーベルの構図となったわけだ。 大掛かりなパフォーマンスで大衆を魅了するアンジャー(ジャックマン)と、緻密なトリックで観客を翻弄するボーデン(ベール)。ある日、水槽からの脱出マジックの事故でアンジャーの妻が死亡。それを機に2人はいがみ合い、し烈な争いを繰り広げていく。そして、あるショッキングな事件が発生。それは事故なのか、トリックなのか――。 『アメリカン・ビューティー』(99)のサム・メンデス監督も興味を示していたというこの企画は、大掛かりなイリュージョンの数々がキモ。CGに頼らず、セット等を建造して「本物」を映しとり、秀逸な筋運びで観客を「ダマす」ノーラン監督にとっては、マジシャンの物語は得意技といえよう。現代劇が多かったノーラン監督が、コスチュームプレイもできることが証明された作品でもある。 憎悪をむき出しにするジャックマンの熱演や、表情から真意を読み取らせないベールの妙演も、観客の心をかき乱す“仕掛け”の一部として機能している。アンジャーの助手役でスカーレット・ヨハンソン、科学者ニコラ・テスラ役でデヴィッド・ボウイが出演。
6.『ダークナイト』(08) 152分
今日に至るまで、数えきれないほどの作品に影響を与え続けてきた、ゼロ年代映画の金字塔。バットマンの宿敵ジョーカーを演じたヒース・レジャーが、死後オスカーを受賞したことも、作品の名声を一層高めている。 前作『バットマン ビギンズ』の裏テーマが「恐怖」だとしたら、本作で描かれるのは「善悪」だろう。腐敗が進むゴッサム・シティを浄化するべく、バットマン(クリスチャン・ベール)、検事のハービー・デント(アーロン・エッカート)、市警のジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)の3人が結託。時を同じくして、狂気の権化ジョーカー(ヒース・レジャー)が動き出す。金や権力に無頓着で、純粋に破壊を愉しむ敵に、彼らはどう挑むのか――。 恋人と検事のどちらを選ぶのか、囚人と市民のどちらを生かすのかなど、全編にわたってジョーカーが揺らす「善悪の秤」と「二者択一」は、登場人物のみならず、我々の価値観にも強く訴えかける。「話す相手によって出自が変わる」得体のしれないジョーカーの不気味さ、理解のできなさも、当時の観客に衝撃を与えた。無機質なヴィラン(悪役)像を構築した『ノーカントリー』(07)との対比も、興味深い。 ヒーローの在り方にも一石を投じるシーンがちりばめられ、バットマンがジョーカーをひき殺せず、代わりに自分が傷を負う場面などが象徴的だ。映像的にも、冒頭シーンの流れるような銀行強盗のシーンから、ゴードンの語りで締めるラストに至るまで、2時間半という長さをまったく感じさせない没入感が続く。 ノーラン作品の特色といえる「無限音階」を使った緊張感を高める音楽、実際に行ったという病院の爆破シーン、走行テストまで行ったバイク「バットポッド」の設計など、舞台裏も趣向の連続で、深堀りしがいのある映画だ。ジョーカーのひび割れた白塗りのメイクにも、キャスト・スタッフのこだわりがにじむ。 なお、本作は米国内の歴代興行収入で、現在第12位(国内ではノーラン史上最大のヒット作)。『007』シリーズにも強い影響を与えており、シリアスなリアリティ路線へと変更がなされたと言われている。『007 スカイフォール』(12)の敵役シルヴァの行動に、本作のジョーカーを重ねた方も多いだろう。 もっと詳しく:『ダークナイト』全てはここから始まった!アメコミ映画の定石をことごとく覆した、クリストファー・ノーラン(https://cinemore.jp/jp/erudition/219/article_220_p1.html)