突き抜けた作家性とメガヒットを両立させる鬼才クリストファー・ノーラン監督作品まとめ
8.『ダークナイト ライジング』(12) 165分
「ダークナイト・トリロジー」の完結編。新たな敵ベイン(トム・ハーディ)に背骨を折られ、ヒーロー生命を絶たれたバットマン(クリスチャン・ベール)が、キャットウーマン(アン・ハサウェイ)らの協力を得て、再起を図る姿がドラマティックに描かれる。 ノーラン作品は長尺で知られているが、完結編にふさわしく2時間45分の超大作となっている。『ダークナイト』はマイケル・マン監督の『ヒート』(95)の影響を受けているが、本作はチャールズ・ディケンズの小説「二都物語」から着想を得たとのこと。ベインの策略によって恐怖政治が敷かれ、ゴッサム・シティは崩壊。シリーズ最大の危機が訪れるなか、バットマンは再び平和を取り戻せるのか。 空中で飛行機が半壊する、アメフトのスタジアムが陥没する、橋が落ちる、バットマンの戦闘機「ザ・バット」が空を飛ぶなど、ド派手なシーンが畳みかける本作。これまで以上に「市民」に焦点が当てられており、大規模な市街戦と乱闘など、「社会」全体がどう変容していくのか、がじっくりと描かれている点が特徴だ。 これまでは夜のシーンが多かったが、本作では日中のシーンが増えているのも注目したい。「闇の騎士(ダークナイト)」が、前作でハービーがなれなかった「光の騎士」へと成長していく姿が示唆されている。原題の『The Dark Knight Rises』ともリンクした、見事な演出だ。 これまでは単独行動が多かったバットマンに、キャットウーマンという“相方”ができることで、ふたりの掛け合いなどの「バディもの」としての面白さも、新たに生まれた。また、『バットマン』シリーズのファンには嬉しい仕掛けも、随所に施されている。 「夜明け前は最も暗い」などの名言も多い本作だが、バットマンがゴードン(ゲイリー・オールドマン)に最後にかけるセリフは、シリーズ全体を総括したものになっており、実に感動的だ。
9.『インターステラー』(14) 169分
大成功に終わった『ダークナイト ライジング』から2年の時を経て、ノーラン監督が生み出したのは、なんと宇宙を舞台にした壮大な叙事詩。地球に滅亡の時が迫り、新たな居住地を探すパイロットたちの冒険を描くスペクタクルだが、そこはノーラン。ここでも「時間」をテーマに、一筋縄ではいかない知的で劇的なストーリーが展開する。 元々、ノーラン監督の弟で脚本家のジョナサンが参加し、スティーヴン・スピルバーグ監督のもとで進められていたという本企画。利権等々の兼ね合いでスピルバーグが外れ、ジョナサンの推薦でノーラン監督が決まったそうだ。とはいえ、製作費概算1億6,500万ドルに対し、6億7,000万ドル以上の世界興収をたたき出す結果となったため、スタジオとしては願ったりかなったりだったのではないか。 例によって『ダークナイト ライジング』からマイケル・ケイン、アン・ハサウェイが参加しているが、それ以外のキャストはマシュー・マコノヒー、ジェシカ・チャステイン、マット・デイモン、ケイシー・アフレックなど新顔が並ぶ。ティモシー・シャラメ、マッケンジー・フォイといった次世代スターを抜擢している点も注視したい。撮影監督も、『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)や『her/世界でひとつの彼女』(13)のホイテ・ヴァン・ホイテマに変更。とはいえ、ダイナミックな映像で魅せるノーランらしさは、全面にいきわたっている。 宇宙モノで無視されがちな「宇宙時間と地球時間のズレ」が、親子のドラマを引き立てる装置として機能しており、地球に置いてきた子どもたちがどんどん成長してしまう哀しみが、父親の目線で描かれる。「愛だけは時空を超えて生き続ける」というセリフに象徴されるように純然たるラブストーリーであり、ノーラン作品史上最も「泣ける」1本かもしれない。 なお、この「宇宙時間と地球時間のズレ」の描写は、新海誠監督の『ほしのこえ』(02)では恋人たちの悲恋を形成する要素として採り入れられており、両者の関連性を指摘する声もある。 もっと詳しく:『インターステラー』を生んだ高度な物理学と、徹底したノーランの実写主義(https://cinemore.jp/jp/erudition/460/article_467_p1.html)