突き抜けた作家性とメガヒットを両立させる鬼才クリストファー・ノーラン監督作品まとめ
2.『メメント』(00) 113分
「才気煥発」という言葉が似合う、ノーラン監督の名を知らしめたアイデア作。記憶が10分しかもたない男が、妻を殺害した犯人を突き止めようと奔走する知性派サスペンスだ。 ノーラン監督の作品には「時間」という共通したテーマが潜んでいるが、本作はその「時間」に対する特異なアプローチが、前面に押し出されている。時系列が逆再生されるつくりになっており、チュートリアル的な「登場人物の人となりや事件の発端の説明」がなく、いきなり殺害現場からスタート(しかも逆再生。この「巻き戻し」演出は、最新作『TENET テネット』の予告編でも使われている)。モノクロ映像とカラー映像が入り乱れ、観客の記憶力や読解力が試される。 記憶を補完するため、自分の身体にメモを刻み、ポラロイド写真を持ち歩くという主人公のスタイルは、強烈に印象に刻まれるだろう。金髪に染めたガイ・ピアースの切迫した演技も光る。 本作を手掛けたノーランは、長編2作目にしてアカデミー賞の脚本賞と編集賞にノミネートされ、興行面では製作費概算900万ドルに対して全世界で3,900万ドルを記録。『メメント』は、今日まで語り継がれる作品となった。 もっと詳しく:『メメント』探偵物・復讐劇の定型を覆すノーランの傑作リバースムービー※注!ネタバレ含みます。(https://cinemore.jp/jp/erudition/1040/article_1043_p1.html)
3.『インソムニア』(02) 118分
ノーラン監督がメジャースタジオと初めて組んだ本作は、彼のフィルモグラフィの中で、やや異端の部類といえるだろう。1997年の同名ノルウェー映画のハリウッドリメイクで、ノーランは監督としてしかクレジットされていない(脚本には携わっているようだが)。 アラスカ内の白夜の町で、少女の猟奇殺人事件が発生。捜査に駆り出されたベテラン刑事(アル・パチーノ)は、慣れない環境で不眠症に陥ってしまう。さらにあるアクシデントに巻き込まれ、謎の男(ロビン・ウィリアムズ)に利用される羽目に……。 アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクといった3人のオスカー受賞者が出演しており、彼らの演技対決が見もの。特に、不眠症に侵されて疲弊していくパチーノのリアルな芝居や、善人のイメージが強いウィリアムズの狂的な怪演が記憶に残る。 本作ではジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグが製作総指揮を務めており、『メメント』でノーラン監督を見出したふたりが抜擢した模様。90年代から00年代前半は『羊たちの沈黙』(91)、『セブン』(95)、『ボーン・コレクター』(99)などサイコサスペンスがブームで、本作もその潮流にあるといえよう(『ファーゴ』(96)的な不条理サスペンスの流れもあろう)。 オリジナル作で能力を見せつけてきた感のあるノーラン監督だが、本作のじっとりとした「登場人物を追い詰めていく」演出は冷徹で、『メメント』からより洗練された“演出家”としての技量を披露している。ダイナミックな風景の切り取り方は、『インターステラー』(14)にも受け継がれている。