トランプは簡単には関税を引き上げられない...世界恐慌を悪化させた「禁じ手」を含む「4つの秘策」とは?
2つの秘策は利用済み
では、どうすれば高率関税を課せるのか。憲法の規定によれば、貿易や関税など対外通商に関する権限は原則として議会にある。それでもトランプは独断で世界中の国に関税を課せるのか。結論的には、まあイエスだ。 1930年の関税法以来、議会は行政府に広範な通商権限を移譲してきた。ただし、その一部は憲法の規定に抵触する恐れが指摘されている。新たな高率関税となれば司法の介入を招きそうだ。 しかしトランプには4つの強力な手段がある。そのうち2つは既に利用した。どちらも昔々の通商関連法にある時代遅れの条項だが、現在の国際貿易秩序に真っ向から挑戦する手段となり得る。 一番簡単なのは、第1次トランプ政権で中国からの輸入品に課すために利用したもの。1974年包括通商法の301条によれば、不公正または差別的な慣行がある国に対しては大統領権限のみで関税を課すことが可能だ。 第1次トランプ政権は不当な補助金や為替操作、知的財産の盗用などを理由に中国産品に関税をかけた。バイデン政権も301条を根拠に、中国製の電気自動車や太陽光パネルなどに対する関税をさらに引き上げた。 こうした前例と権限を根拠にすれば、全ての中国産品に高率関税をかけるのも容易だ。ウルフに言わせれば「301条の行使は簡単」で、「トランプはいつでも中国への60%関税を発動できる」。 トランプが以前に利用したもう1つの手段は1962年通商拡大法の232条。国家安全保障のために関税を利用する権限を大統領に与えた条項で、トランプはこれを根拠に鉄鋼とアルミニウムの輸入関税を引き上げた。しかし今回はあまり役に立たないかもしれない。 なにしろ232条を使うには、当該産品が安全保障に決定的に重要だという商務省による認定が必要だ。鉄鋼については認定されるだろうが、ペンシルベニア州の鉄鋼労働者の票が欲しいという理由だけでは苦しい。 国家安全保障を持ち出して関税を正当化することにはWTOも抵抗するだろう。もちろんアメリカ政府はWTOの意向など気にしない。だが諸外国は過去に、安全保障を口実とする貿易制限は不当だとして何度もWTOに提訴している。 アメリカの歴代政権がWTOの審理・仲裁能力を骨抜きにしていなければ、こうした訴えは認められていた可能性が高い。 幸か不幸か、トランプには1期目で手を付けなかった権限がまだ2つある。 1つは、1977年に施行された国際緊急経済権限法(IEEPA)に由来するもので、制裁を科したり、サイバー犯罪と戦ったり、外国の選挙干渉を罰したり、場合によっては関税を課したりする広範かつほぼ無制限の巨大な権限を大統領に与えている。 この法律で関税を課すために必要なのは、大統領が国家の緊急事態を宣言することだけだ。ちなみに1期目のトランプは10回近く、緊急事態を宣言している。 「彼が少しでも早くやりたいなら」、IEEPAは1つの選択肢になり得るとウルフは言う。「国家の緊急事態を口実にトランプがあらゆる産品に関税をかけた場合、最高裁はそれを支持するか。今の最高裁なら、それもあり得る」