終わりのない「苦しみ」がずっと続く...話し合いで「自分の意見を言わない人」が知らず知らず背負っている“サンドバック化”のリスク
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第4回 『「大切な人と深くつながるために」...令和世代の教科書にも載っている「コミュニケーションが得意」になれる秘訣とは』より続く
黙っていた方が楽
2022年、知り合いの校長先生に頼まれて、横浜の私立中学校の1年生に授業をしました。 「みんなは、ぼくのことを知らないと思うんだけど、ぼくは小学6年生の国語の教科書で『大切な人と深くつながるために』を書いたんだよ」と言うと、200人ほどいた中学1年生がいっせいに「ああっ!」と声を上げました。 聞いている生徒たちの態度が一気に変わった瞬間でした。 休憩時間に、中学生がぼくの周りに集まりました。そして口々に「あの文章で救われた」「友だちとぶつかってもいいんだとホッとした」「コミュニケーションがうまいことを友だちが多いことだと思っていたから、すごく楽になった」と言いました。 休憩時間の終わりに、一人の小柄な男子中学生が「もっと詳しく話を聞きたい」と恥ずかしそうに言いました。 彼は、小さい声で「主張して周りとぶつかるより、黙っていた方が楽じゃないですか」と言いました。 ぼくは「その気持ちはよく分かるよ」と答えました。そして、授業の後半を使って、彼の質問に答えることにしました。