「クソ悔しい」石川祐希も指摘した宮浦健人の“消極的なプレー”…それでも、“背番号4”に期待してしまう理由「パリで目撃した限界突破の筋トレ」
転機となった海外挑戦「西田だけじゃない」
高校バレーの名門・鎮西高でエースとして活躍。同校の畑野久雄監督が「とにかくミスをしない選手」と称える抜群の安定感を武器に、学生時代からアンダーカテゴリー日本代表に選出された。アタッカーとしての実績、実力は右に出る者はいない。しかし、先に世界へ名を馳せたのは1歳下の西田だった。 2021年、危機感を募らせた宮浦は、さらなる成長と進化を求めてポーランドへ渡った。チームでは2番手のオポジットとして出場機会は限られたが、2枚替えやサーブでアピールを続け、練習時にも「100%の力を出し切った」。その言葉が真実であることを、これ以上ない形で発揮したのが昨年のネーションズリーグだった。 不調の西田に代わりスタメン出場を重ね、ブラジルやイタリアといった強豪国から勝利を奪った。日本のオポジットは西田だけでなく宮浦もいる――その名を世界に轟かせた。昨季はフランスのパリ・バレーに移籍し、全試合出場。得点源としてチームの主軸を担うまでに成長した。 活躍ぶりに加え、寡黙で自惚れとは程遠い実直なキャラクターはファンの心を掴んだ。内に秘めた闘志と、いついかなる時に出番が巡ってきても準備を重ねた成果を発揮する仕事人ぶりが注目され、知名度は一気に急上昇。タオルやTシャツなどのグッズも昨年以上に多く展開され、あっという間に完売した。 実際に、福岡会場には宮浦の「4番」の応援Tシャツを着る人の数が明らかに増えた。宮浦自身は「数が少なかったから完売しただけ」と笑うが、紛れもなく、人気・実力共に日本を代表する選手の一人となった。
厳しくなる宮浦へのマーク
ステージが上がれば、注目度も上がる。当然それはファンだけでなく、ネットを挟んで対峙する相手も同じ。宮浦に対する警戒は厳しさを増した。被ブロックの本数もその表れでもあるのだが、それを越えられないことこそが「力不足」と自らに矢印を向ける。 「去年のVNLと比べてどれぐらいか、ハッキリはわからないですけど、ブロックのプレッシャーや圧は間違いなく感じます。相手が自分に対して対策してきているのに対して、どうしようと迷いが生じてしまって、苦しいところで決められなかった。でもそこで決めないと力不足だし、もっともっと先、トップになるためには通らないといけない道なので。もう1つ、殻を破らないといけない、と思っています」 ポーランド戦はまさにその課題が突き付けられた。序盤から立て続けにブロック失点を喫したことで、消極的になった。この日、“セカンドリベロ”としてベンチにいた石川祐希は試合を見ながら時折、アドバイスを送っていた。指摘は宮浦自身が考えていたことと同じだった。 「リバウンドを取りに行く時にジャンプが低くなっていたので、通過点が低いし、相手もその時点で『リバウンドだ』とわかる。1セット目が終わった時に、まずはしっかりジャンプして高い位置でリバウンドを獲るのか、打ちに行くのかという判断をするように、ということは伝えました。選考もかかっているプレッシャーがあって、さらにポーランドからも攻撃される。難しい状況であるのは間違いないですけど、それでもやらないといけない。消極的になっていたのは事実だと思うし、そこで普通に振る舞えたり、もっとアグレッシブに戦えないとオリンピックでは勝てないと思うので。そういった面で、1つ、いい経験になったと思います」(石川) 躍動した昨年のネーションズリーグと比べ、苦悩の時間は続く。だが、それすらもきっと力に変えて、強くなる。そんな期待を抱けるのは、宮浦がこれまで証明してきたことを知っているからだ。 日々自分の限界を突破すべく、挑む。象徴的な姿を見たのはパリでの取材時だった。 午前と午後の2部練習が行われた日の朝。「朝、苦手です」と苦笑いを浮かべながらも、ジムの空いたスペースにバーベルを運び、黙々と挙上を繰り返す。 与えられたメニューが中盤に差し掛かろうかという頃、「何キロ?」と聞かずとも見るだけでわかる重量のバーベルにセットした。屈強なチームメイトたちも「あれを上げんの?」と驚きの表情で見つめる中、フルパワーとフルスピードで4回もトラップバーを用いたデッドリフトを行い、ふーっと息を吐いた。 この日は140キロから始め、徐々に145、150と5キロずつ重りを増やし、最終的には150キロを2セットこなした。重さに目が行くが、狙いはむしろ「どれだけの重さを挙げるか」ではなく、その重さを「どれだけ速く上げられるか」。バーベルを持ってから引き上げるまでの時間を0.85~0.95秒に定め、バレーボールのジャンプに直結するトレーニングであることを意識しながら取り組んでいた。 「プレーの1つ1つを可視化して、どこがどれぐらい成長したかを表すのは難しい。でもウエイトトレーニングに関しては、数値で可視化できるので、そこで結果を追って行く。自分で機械を買ったので、アプリと連動させて、毎日の数値がデータとして蓄積されるんです。目に見えれば、効率的に成長を実感できるし、それが正解か、正解じゃないかはわからないですけど、自分には合っているやり方だと思って続けてきました」 チームや施設が所有するような本格的な機器を個人で持つ選手はおそらくほぼいない。 「やりすぎって言われるんですよ。でも自分の性格上、やると決めたらやらないと。気持ち悪いんで(笑)」 やる、と決めたらやる。 今はそびえ立つブロックに「止められた悪いイメージが残る」とうなだれながらも、この壁をどうすれば打ち破れるか、を考える。これまでも何度も困難と直面しながら自分を信じて打ち克ってきた。 「いっぱい悩んで、いろんなことを吸収しながら成長していく。“やれる”という自信はあるし、もっともっと、強くなれれば解決できると思うので。力不足を感じながらですけど、それが自分の糧になっていると思って、まだまだ。もっと頑張ります」 迷いなど打ち消す一本を、自らの左手で――。 会心の一打を噛みしめるように、見せるのは決して派手ではないガッツポーズ。静かに握りしめた右手に、溢れんばかりの闘志を込める。 その姿こそ、何よりカッコいい、皆が見たいと待ち望む「宮浦健人」の姿だ。
(「バレーボールPRESS」田中夕子 = 文)
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