『凶悪』から11年…白石和彌監督、山田孝之と再タッグを組んだ新作『十一人の賊軍』は「残りの監督人生の出発点になる作品」
「山田さんが僕を監督にしてくれた」再タッグを組んだ山田孝之への信頼
――今回、山田さんが主演を務めていますね。 白石監督:監督をやって十何年経つ中で、この作品は、今後も監督をやっていく中で残りの出発点になるんだろうなって思ったんです。それで山田孝之さんにお願いしました。『凶悪』以来、お願いできていなかったので。 ――それはやはり『凶悪』の評価を2人で勝ち取ったという感覚があったのでしょうか? 白石監督:むしろ僕を監督にしてくれたのは、山田さんであり、ピエール瀧さんであり、リリー・フランキーさんなので。山田さんは魂を作品に入れてくれる人だと思っているので、最初に口説きに行きました。でも、最初に会いに行ったときには既に「やる」って決めてくれていたみたいなので、「暴れ倒す準備はできています。覚悟してます」と笑いながら言ってくれました。 ――今回の山田さんが演じた政のキャラクターは意外に感じました。こんなに主人公なのに卑怯なんだ…って(笑)。 白石監督:すぐ逃げる、すぐ裏切ろうとするからね(笑)。 ただ、自分のことしか考えてない政の最後の行動に、人間らしさが出ていると思います。 鷲尾兵士郎(仲野太賀)も一番藩のことを考えてるのに、切り捨てられていくっていうのが、やっぱり侍だし、名もなき兵士たちなんだという。 ――もう一人の主演・仲野さんは、人格が個性的な面白いキャラクターを演じているイメージが強いんですけど、今回演じた兵士郎は、武士道を貫いて最後の最後まで一本気でかっこよかったですね。彼のイメージがだいぶ変わる作品になったのではと思います。 白石監督:仲野太賀爆上がりだよ!(笑) 本人は「一生懸命頑張ります!」と日々目の前のことにいっぱいいっぱいになって頑張ってました。仲野太賀は尻上がりな俳優なので、いくつかテイクを重ねた方がよくなっていく。殺陣も最初の頃は一番ボロボロだった。最初の練習に立ち会ったときに、「これ仕上がるかな」っていうドキドキ感がありました(笑)。本人もそれを感じ取って「監督、今はやばいと思ってると思いますけど、ちゃんと仕上げますので!」と。そして、本当に仕上げてくれた。 殺陣の感じも、兵士郎らしいというか……。これは作品全体ですけど、飛んだり跳ねたりというか、地に足ついた感じのものをやりたくて、「阪妻」(時代劇映画の大スター・阪東妻三郎の愛称)とか、ああいう感じの殺陣っぽく見えたらいいなと思ってたんですけど。最後の兵士郎はかっこよかったですね。 ――仲野さんとはずっとお仕事したいと考えていたそうですが、オファーしたのは今回が初めてだったんですか? 白石監督:はい。そうですね。『碁盤斬り』が、去年の2、3月とかに撮影してて、その前に年末とかに仲野太賀に会って、殺陣の練習をしといてもらいました。 それで『碁盤斬り』の撮影で僕は京都に行ったんですけど、京都の松竹撮影所の前に「餃子の王将」があるんですけど、そこで昼飯を食うと仲野太賀のCMとかポスターがあるわけでですよ。「太賀くん殺陣頑張ってるかな」って毎日飯食いながら思い出すという(笑)。 「『碁盤斬り』撮りながらもずっと太賀くんのことを考えてたよ!」って(笑)。 イメージ通りまっすぐな俳優さんで、かっこよかったです。 ――山田さんとは『凶悪』ぶりでしたが、変わったなと思うところはありましたか? 白石監督:山田さんは、その後、プロデューサーをやったり、作る側も経験されている。だから、“クリエイター”としての側面が“俳優”としての存在も大きくしているなと思いました。心強かったです。周りが「孝之くん、どんな芝居してるのかな」って見ているのが分かりました。現場では、山田さんみたいに兄貴感を発揮してくれると助かります。みんなを連れてフィリピンパブに行ってくれたりもした(笑)。終わりくらいに「監督も行きましょうよ!」って誘われて、僕も館山に行きました。その頃には、俳優はだいぶいなくなってて数人で行ったんですけど、街を練り歩いてる時に「あ!山田さん来てくれた!」みたいに声をかけられる。フィリピンパブとかでも「タカユキサン!」みたいな(笑)。 ――(笑)求心力がすごいですね! 白石監督:山田さんは、どこに行ってもフラットだから。面白いですよね。 ――現場でも“兄貴感”は出ていましたか? 白石監督:山田孝之は頭ひとつ飛び抜けてますね。映画における実在感。映画の世界観を支配する能力というのが、『凶悪』のときとは比にならないくらいになってるなと思いました。 この背中を見れたのは仲野太賀くんにとっても大きかったと思います。彼ももちろん素晴らしい俳優ですけど、きっと(山田さんと)この作品を一緒にできたことで、太賀くんにも引き継がれていくと思います。