さすがベストセラー! と納得の伏線の数々。ひと夏の青春が詰まった謎解きミステリードラマ。
イギリス人のベストセラー作家ホリー・ジャクソン著『自由研究には向かない殺人』がNetflixにて映像化。ヤングアダルト作品だと思って侮ることなかれ、まばゆいほどの恋物語、二転三転してゆく真実、信頼していた者の裏切り、大切な仲間たちとの絆、驚きの結末……。ひと夏の青春がぎゅっと詰まった濃厚な謎解きミステリーだ。 イギリスの小さな町に住む、高校3年生のピップ。彼女にはずっと心のどこかで引っかかっていることがあった。それは、5年前に失踪したアンディという少女の失踪事件だ。 アンディの恋人であるサルが犯行を自白し、その後自殺、事件は解決したと誰もが思っていた。しかし、アンディの遺体は見つかっていない。どうしても優しかったサルの犯行だとは思えないピップは、大学進学の資格を得るために必要な自由研究の題材として、この事件を調べることにした。それだけではない、ピップにはどうしても心に引っかかっている“あること”が忘れられず、自分の行動が正しかったのかを証明する必要があったのだった……。 ピップはかの有名な探偵のように頭の回転も早く、勘も鋭い。好奇心の旺盛さは、いつでもピップを尊重し、自由にさせてくれた両親のおかげだろう。少々突っ走る傾向があり、危なっかしくハラハラさせられることもあるが、一度決めたら最後までやり通す、正義感の強い女の子だ。 大胆にも潜入捜査をし、SNSで周辺人物の事件当日の足取りをつかみ、失踪したアンディの友人たちに聞き込みを行った。ピップ同様サルの無実を証明したい、サルの弟・ラヴィとタッグを組み、時系列順に事件を追ってゆくと、警察も知らない真実が次々と明るみになってゆく。 正直で、前向きで、怖いもの知らずなピップに、すぐ魅了されてしまうだろう。しかしながら、まだ幼さの残る高校生だ。調べてゆくうちに、知りたくなかった真実まで知ることとなり、抱えきれなくなるのも無理はない。ティーンエイジャーの謎解き話かと思って観ていたはずが、次第に重くダークな真実が次々に発覚し、そのたび妙な親心が芽生え、「お願いだからこれ以上ピップを苦しませないでくれ……」という気持ちになってしまう。 さすがベストセラー!と納得の伏線の数々、それは1話から綿密に仕込まれていて、セリフや写真、意外なものまでもきれいに回収されてしまうのだからすごい。 視聴者が思考を張り巡らせなくてはならない作品というよりも、ピップと一緒に真実を探ってゆく感覚で気を張らずに楽しむことができる。そしてなにより、予想だにしなかった衝撃の結末に、見応えを十分に感じることができるだろう。 同Netflix作品『ウェンズデー』で人狼イーニッド役を演じたエマ・マイヤーズがピップを演じた。周囲の反対もお構いなしに自由研究に没頭し、少々周りをかき乱してしまうが、不思議とエマ演じるピップを応援したくなってしまう。「どうしてもサルの無実を証明したい」と願う強い気持ちが、その瞳からうかがえるからだろうか、周囲のキャラクターも、視聴者も、心を奪われてしまうのだ。 全6話で完結というボリューム感もうれしい『自由研究には向かない殺人』はNetflixにて絶賛配信中。原作の小説は三部作となっており、『優等生は探偵に向かない』『卒業生には向かない真実』と物語は続いていく。 来年の夏もまたピップに会いたい、そう願うばかりだ。 Text:Jun Ayukawa Illustration:Mai Endo
朝日新聞社