高橋ヨシキが映画『憐れみの3章』をレビュー!
日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 『哀れなるものたち』の監督が放つ、衝撃の寓話集! * * * 『憐れみの3章』 評点:★4点(5点満点) きめ細やかなディティールが哄笑を誘う ヨルゴス・ランティモス監督の前作『哀れなるものたち』にあやかろうとした邦題は全く頂けないが(「あわれ」の漢字を変えて違いを出そうとしているのがより哀れを誘う)、前作のような絢爛豪華なセッティングではなく、ごく普通の風景の中に奇怪な別世界を浮かび上がらせる手つきにはさらなる洗練がみられる。 3部構成のオムニバス映画で、独立した3つのエピソードでエマ・ストーンやジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォーといった手練れがそれぞれ全く異なるキャラクターを演じる、という仕掛けも面白いし見応えがある。 奇妙な物語はどれも解釈の余地が広く、支配と隷属、「神」と「信仰」(もしくは「カルト」と「依存」)、あるいは「個人的な現実」と「客観的な現実」の境目をたゆたうものだが、一貫した皮肉で意地悪なユーモアが全てを包み込んでいて、そこが本作の主眼と言っていい。 人間に備わった一種の機械性や、自分たちが思っているよりずっと低いキャパシティといったものはコメディを成立させる大きな要素だが、本作もまたそこを突いたコメディ映画なのだ。きめ細やかなディティール(「スピっている」人たちはサンダルを履きがちとか)も抜かりなく見事。 STORY:「選択肢を奪われ、自分の人生を取り戻そうと格闘する男」「海で失踪し帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官」、そして「卓越した教祖になると定められた特別な人物を懸命に探す女」の3つの物語が紡がれる 監督・脚本:ヨルゴス・ランティモス出演:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォーほか上映時間:164分 全国公開中