日本企業が賃上げもイノベーションもできない理由 「株主価値最大化」がもたらした「失われた30年」
端的に言えば、ラゾニックは、過去40年間のアメリカの企業組織の変遷を、価値を創造して利益を生み出す組織から、価値を奪い取ることで利益を生み出す組織へと変貌していった失敗の歴史として描いているのである。そして、この失敗の歴史を駆動していたのが、「株主価値最大化」というイデオロギーである。 ■アメリカの「改革」後追いがもたらした「失われた30年」 賢明な読者はすでに察していると思うが、日本は、この一連のアメリカの失敗を後追いしたのである。しかも、それを「改革」と称して、やり続けた。その時期は、「失われた30年」と言われる時期と一致している。
その30年間の日本の改革を、先述のアメリカの制度改革の変遷と比較しつつ、改めて振り返ってみよう。 1997年の改正商法によってストックオプション制度が導入された。さらに、2001年の改正商法で新株予約権制度が導入されたことで、ストックオプションの普及が促進された。この2001年の改正商法では、自社株買いについて目的を限定せずに取得・保有することも可能とされた。 さらに、2003年の改正商法では、取締役会の決定で自社株買いが機動的にできるようにする規制緩和が行われた。なお、この改正商法では、アメリカ的な社外取締役制度が導入され、外資による日本企業の買収が容易になった。2005年には会社法が制定され、株式交換が外資に解禁された。
1999年には、労働者派遣事業が製造業などを除いて原則自由化され、2004年には製造業への労働者派遣も解禁された。2001年、確定拠出型年金制度が導入され、従業員の年金に関する企業の責任は軽減された。 このように、1990年代から2000年代にかけての日本は、1980年代以降のアメリカの「コーポレートガバナンス改革」を模倣し続けていた。ところが、2010年代に入ると、そのアメリカにおいて、株主資本主義に対する批判の声が高まってくるようになる。