「友好関係さらに深まる機会に」天皇陛下ご訪英前の会見 宮内記者会質問へのご回答全文
「マートン・コレッジの寮生活では、専攻分野や出身国を異にする学生が共に生活する中で、多くの貴重な経験をすることができました。例えば、コレッジでは食堂での食事が大切な交流の場となっていました。食堂での席は自由であり、近くに座った者同士が自己紹介し、握手し合っている光景をよく目にしたものです。コレッジの食事の場は、他の学生との会話を通して、自分の専門外の話や広範な知識を身に付けられる貴重な機会となっており、当時、私が弦楽四重奏のグループを作ることができたのも、朝の食堂での一学生との出会いがきっかけでした。このように、寮生活を通しても、多くの友人や知り合いを得ることができたことは有り難いことでした」
「留学の経験から、英国では、伝統を重んじながら、古いものと新しいものを対立させることなく見事に融合させており、柔軟性のある社会が形成されているという印象を受けました。例えば、オックスフォード大学の入学式での服装や、ラテン語で行われる式の進行を見ても、数百年にわたって継承されている伝統を感じたものです。このように伝統が重視されるオックスフォードの街で、ガウンを身にまとい、学帽をかぶって歩く学生と、パンク・ファッションの若者がすれ違っても特に違和感がなく、両者がうまく街に吸収されているかのように思われたものでした」
「留学中にも、英国王室の方々から、様々な形でお心遣いを頂きました。英国に到着した翌々日、エリザベス女王陛下からバッキンガム宮殿でのお茶に御招待いただき、女王陛下御自身で紅茶をいれてくださるなど、くつろいだ雰囲気の中で、楽しいひとときを過ごさせていただきました。女王陛下からは、日本訪問時のお話や今後の私の英国での生活についてのお尋ねがあったことを覚えています。その翌年、女王陛下の御招待でスコットランドのバルモラル城を訪れた際には、女王陛下、フィリップ王配殿下を始め、王室の方々と数日間御一緒する機会に恵まれました。滞在中、女王陛下が車を運転してくださり、敷地内の建物でのバーベキューに御招待いただいたり、フィリップ殿下が自ら馬車を操って敷地内を御案内くださったりしたことはとても有り難く、懐かしい思い出になっています。また、当時のチャールズ皇太子殿下とは、バルモラル城近くの川で毛鉤(ばり)で魚を釣るフライフィッシングを御一緒しました。私自身フライフィッシングは初めての経験でしたが、皇太子殿下から毛鉤(ばり)の付け方や毛鉤(ばり)の投げ方などを丁寧に教えていただきました。二人そろってウェーダーという胴付長靴を履いて川の中に入り、近くで大きな魚が跳ねるのを見たのですが、二人とも収穫はありませんでした。このように、女王陛下を始めとする英国王室の皆様に家族の一員であるかのような心温まるおもてなしを頂いたことが懐かしく思い出されます。そして、このことは長年にわたって、日英の皇室、王室の皆様が培ってこられた温かい交流の歴史のお陰と深く感謝しております」