悪天候でも決行したカナダ「ダークスカイ・ツーリズム」で星空の代わりに見えたもの
ネオンサインや街の明かりなど、星空を台無しにする「光害」を排除した「ダークスカイ推進運動」が、近年世界各地で活発化し、環境に配慮した照明のあり方が考慮されるようになってきた。 活動の先進国であるカナダ国内には、ダークスカイ保護区(星空保護区)が13カ所ある。その一つがカナディアンロッキーのジャスパー国立公園だ。 星空観察やナイトハイクなどダークスカイを体験する観光を「ダークスカイ・ツーリズム」と呼ぶ。 毎年10月に行われる「ジャスパー・ダークスカイ・フェスティバル」では、さまざまなイベントやアクティビティを通して「ダークスカイ・ツーリズム」を体験できる。 【写真】期待していた満天の星を見ることは叶わなかったが… 旅とホテルをテーマにノンフィクション、小説、紀行、エッセイ、評論など幅広い分野で執筆する作家 山口由美さんは昨年10月、フェスティバルの時期にジャスパーを訪問。期間中にだけ開催される特別なアクティビティ「ナイトハイク」に参加した。 前編「星空を台無しにする原因は? カナディアンロッキーのダークスカイ・ツーリズム体験」では、ヘッドライトの明かりを消し、暗闇の森をハイキングするアクティビティの中で、最初は見えないことに対する恐怖を感じながらも、徐々に自然と一体化していく感覚を手に入れ、自分の中に眠る野生の勘が覚醒していく体験をお伝えしている。 後編では、曇天の中、森を歩き続け、晴天であれば星空観察をする平原にやってきた体験を山口さんのご執筆でお届けする。
暗闇の中で育まれる一体感
見上げた空に星はなかった。 鈍い灰色の空が木々の間に広がっている。 美しい星空を見るために、ダークスカイ保護区のジャスパーにやって来たのだが、ナイトハイクで暗い森を夢中になって歩いていると、星が見られないことを忘れてしまうのが不思議だった。 山道はだんだん険しくなっていく。 参加者同士、声を掛け合う。 「ロックス(石があるよ)」 「ルーツ(根っこがあるよ)」 「ストリーム(水の流れ)」 お互いに初対面の、簡単にファーストネームで挨拶しただけの関係だったのに、暗闇の中で歩くうちに、気がつくと一体感が生まれていた。 しばらく歩くと、広く開けた平原のような場所に出た。 「ここでいつも星を観察するんだけど」 ガイドが私たちに言う。 参加者全員で空を凝視した。 「少しは晴れ間がないかしら」 「あのあたり、少し星が見えない?」 だが、見上げた空から落ちてきたのは、何と雨粒だった。 「今日は駄目みたいね」