加藤豪将、得難い個性は戦力だったーー突然の「前進」表明にエール【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#236】
2022年のドラフト会議で3位指名を受け、「逆輸入ルーキー」として注目を集めた加藤豪将が今月3日、突然の引退を発表した。 北海道日本ハムファイターズ 2024年の戦力外通告 現役引退 自由契約 退団選手 移籍情報一覧
予想外の引退リリース
野球ファンが日本シリーズ第6戦当日、ざわついた気分でいた3連休の中日、球団公式Xに一篇のポストが掲載された。 「本日11月3日、北海道日本ハムファイターズの加藤豪将選手(30)が今季限りで現役引退を表明しましたので、お知らせいたします。 『12年間、応援し支えてくれたファンの皆さん、本当にありがとうございました。ここまで来られたのは、家族やチームメイト、監督、コーチ、球団の方々、ファンの皆さんのおかげです。これからも新しい挑戦を続け、これまでの経験と感謝の気持ちを胸に、前に進んでいきます』」 驚いた。いきなり引退リリースだ。秋季キャンプメンバーに名前がなく、嫌な予感はしていたけれど、まさか現役引退とは思っていない(報道されてないケガがあるのかと思っていた)。「12年間」に感謝しているところから単なるファイターズ退団の挨拶でなく、野球に見切りをつけ別の道へ進もうとする決意表明であることがうかがえる。いわば杉谷拳士ではないけれど、引退でなく「前進」表明なのだ。30歳という年齢は加藤豪将にとってそういう区切りなのだろう。 思えば2013年MLBドラフトのニューヨークヤンキース2巡目で「日本国籍を持つ選手」が指名されたときは話題騒然となった。イチローの影響で左打者になったというカリフォルニア育ちの若者は、何か新しい時代の到来を予感させた。その後、マイナー暮らしが長く、メディアで取り上げられる機会も減ったが、2022年トロント・ブルージェイズにコールアップされ、メジャーデビューを果たす。初出場は確か代走だった。そのニュース映像を鮮明に覚えている。けれど、豪将のメジャーでのキャリアは儚かった。アメリカ英語の表現で「コーヒー1杯の間」と言われるやつだ。 そんな豪将が2022年10月のNPBドラフト会議でファイターズ3位指名されたのだ。背番号3。「逆輸入ルーキー」と話題になった。カッコよかったのは入団スピーチだ。「考え方がしっかりしている」という域を突破していた。一流アスリートにまま見られることだけど、言語化能力が卓越している。あのスピーチに触れた者は皆、加藤豪将が自分の言葉を持ったプレーヤーなのだと理解したはずだ。以下、キラッと光ったセンテンスを抜き書きする。 「(念願のメジャーデビューに喜びが少しもなかった、という話から)翌日、私の頭に一つの言葉がよぎった。『歩くことが好きな人は、ゴールを目指している人よりも遠くに歩ける』。そのときにピンときた。メジャーリーガーになることに喜びはなく、そのために毎日毎日、自分を高めるために夢中になるプロセスに喜びを感じていたのだ。自分が野球をやる意味はそこにあった」 タテ社会の日本野球エリート(自分よりも、先輩やチームの和を重んじるよう意識づけされる)からはなかなか出てこないフレーズだ。魅力がある。そして米球界で培った実力をファイターズで開花させてほしいと願った。ちょうどファイターズは近藤健介がFA移籍し、核になる左バッターを求めていたタイミングだ(正確に言うとドラフト時はまだ確定していない)。背番号3、きっと新しいタイプのスターが誕生する。