加藤豪将、得難い個性は戦力だったーー突然の「前進」表明にエール【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#236】
悔しさと残念さ
2023年はNPBデビューから10試合連続ヒット、5月には2打席連続ホームラン(NPB1号、2号!)を放つなど、出だし好調だった。僕は「コンスケの穴は事実上埋まった」と歓喜した。が、続かなかった。結局、1年目は62試合出場、打率.210だ。セカンドは上川畑大悟、石井一成、細川凌平らと競う形になるが、打力。守備力ともにアピールポイントが足りない。ファイターズは若い力が台頭する時期を迎えていた。2024年、ショート水野、セカンド上川畑が定着し、豪将は28試合、打率.172とすっかり存在感を失う。だけど、僕は生き残る目はあると思っていた。勝負強さを磨けばいい。例えばの話、代打の切り札として他球団から怖れられる存在になればいい。ファイターズには「代走の切り札」はいても代打はいない。打席に向かうとき、「僕は無敵だ」とつぶやく豪将はふさわしいのじゃないか。 僕は豪将が個(パーソナリティー)の強さで勝ち残るだろうと楽観視していたのだ。それほど得難い個性だったし、戦力だった。だから、突然の引退表明は残念でならない。何が悔しいって「これぞ加藤豪将!」って見せ場もなく、彼がファイターズのユニフォームを脱ぐことだ。同じことは例えば柿木蓮にも思ってしまう。輝かしい個性じゃないか。僕は鎌ケ谷で加藤豪将も柿木蓮も見てきたが、グラウンドにいるだけで目が行くのだ。僕が言ってるのは、マンガ家が「キャラを動かす」と表現するのに似ている。あんな魅力ある「キャラ」を活躍させないで、物語の本筋が進むのか。優勝争いの佳境やCS、日本シリーズのヒリつくようなヤマ場、「ああ、このシーンは一生忘れられないな」という晴れ姿も作ってやれず終わるのか。 去ってゆくプレーヤーたちの背中に拍手を送りたい。そして、セカンドキャリアの成功を祈りたい。数字は残らなかった。晴れ姿も残せなかった。だけど、僕はグラウンドに颯爽と立つ加藤豪将を忘れない。ありがとう。 えのきどいちろう