【事業売却】「税引後の売却対価」はいくら?個人・法人の「株式の譲渡所得」にかかる税金を計算
会社を売却すると、その売却対価のなかから、支援業者に対する手数料や税金を支払うことになります。手取りとして残る売却対価は実際どの程度になるのか、気になる売り手オーナー経営者は多いでしょう。M&A支援を行う作田隆吉氏(オーナーズ株式会社代表取締役社長)が、中小M&Aで最も広く活用されている「株式譲渡による事業売却」を前提に解説します。
個人の株式譲渡益に対する課税
個人が株式を譲渡したときの課税方式は、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」です。給与所得や配当・利子所得(除く源泉分離課税対象)、不動産所得、一時所得などを対象とする「総合課税」とは別で税金が計算されることになります。 なお、上場株式とそれ以外の一般株式は、それぞれ別の申告分離課税とされているため、両者の損益を通算することはできません。言い換えれば、上場株式の譲渡損失が生じている場合においても、一般株式の譲渡所得から控除することはできないということです。 まず、税金計算の基礎となる株式の譲渡所得は以下のように計算します。 【譲渡価額-必要経費(取得費+譲渡手数料等)=譲渡所得】 ◆取得費 必要経費として所得計算上控除することができる取得費がわからない場合には、売却代金の5%相当額を取得費の額とすることが認められています(=5%特例)。実際の取得費が売却代金の5%相当額を下回る場合にも同様の処理が容認されると解釈されていますので、判明している場合には、実際の取得費を把握したうえでどちらの処理が有利になるかを検討するとよいでしょう。 ◆譲渡手数料等 上記の所得計算上、仲介手数料やFAに支払う業務報酬は、支払った消費税を含めて必要経費として計上することが可能です。 中小M&Aにおける仲介手数料やFAに支払う業務報酬の算定あたっては、レーマン・テーブルといわれる成功報酬体系が採用されることが一般的です(図表)。 レーマン・テーブルの料率を乗じる対象は、業者によって株式対価であったり移動総資産であったりと設定がさまざまですので注意しなければなりません。移動総資産とは、株式対価に有利子負債や買掛金、未払金等のすべての負債合計額を加えた金額です。移動総資産に基づくレーマン・テーブルが採用される場合には、手数料が株式対価に対して高額になることが多く、売り手オーナーとして納得感を得がたい料金体系になりがちです。 なお、取引にあたって支給される退職金や配当金が株式対価や移動総資産の定義に含まれることが一般的ですので、こちらも留意が必要です。そのほか、一部の仲介会社では着手金が徴収されるケースもありますので、着手金の有無についても事前に業者に確認をしておくとよいでしょう。 ◆譲渡所得の金額に税率を乗じて税額を計算する 上記に基づいて計算した譲渡所得に税率を乗じることで税額を計算します。 税率は一律20%(所得税:15%+住民税5%)です。ただし、平成25年から令和19年までは復興特別所得税として、各年分の基準所得税額(15%)に2.1%を乗じた額を所得税と合わせて申告・納付することとなっています。復興特別所得税を考慮すると、本書執筆時点における所得税は15%×(1+2.1%)=15.315%となり、住民税(5%)を加えた20.315%が、譲渡所得等にかかる税率となります。 それでは、具体的に事例を使って計算してみましょう。 〈計算例:株式譲渡対価 6億円、仲介手数料 2,900万円、取得費1,000万円の場合における譲渡所得〉 上記で紹介した5%特例を採用する場合、取得費は【6億円×5%=3,000万円】となり、実際の取得費1,000万円よりも大きくなることがわかります。取得費は所得計算上、必要経費として控除することができるものですから、金額が大きいほうが算出される所得が小さく(=税金の金額が小さく)なります。したがって、ここでは5%特例で計算した3,000万円を採用します。また、仲介手数料にかかる消費税(290万円)も必要経費に含むことができます。 すると譲渡所得、所得税および住民税の金額は、次のように計算することができます。 【譲渡価格6億円-必要経費(3,000万円+2,900万円+290万円)=5億3,810万円】 【所得税・住民税の額=5億3,810万円×20.315%=1億932万円(一括計算の概算値です)】