女子レスリングV13、伊調の五輪4連覇に死角無し!
世界選手権10回目の優勝ですねと聞かれると「逆に楽しくないです」と苦笑いしながら答えた女子レスリングの伊調馨は、「そんなに経つのかと思っちゃって。年を感じちゃうので」と続けた。 日本時間11日に米国ラスベガスで行われたレスリング世界選手権の女子フリースタイル58キロ級の伊調馨(31歳、ALSOK)は、ポイントを1点も失わずに完全優勝。大会V10、五輪を含めV13を成し遂げた。それでも、このコメント。一日前に世界大会16連覇を達成した吉田沙保里が、連覇や連勝を屈託なく喜ぶのとは対照的だ。 伊調は「理想のレスリング」に近づくために試合をし、勝利第一ではないと繰り返し言う。過程が目的になっているような矛盾に聞こえるが、この理想を現実に変える思考法が伊調の抜きんでた強さの秘訣だ。 本来、対人競技、とくにレスリングのようなコンタクトスポーツの場合、具体的な対戦相手の存在がないと技術の向上や発展は難しい。そもそも必要性を感じづらいし、想像だけでは練習に身が入らないからだ。そのため、強力なライバルの存在が選手個人だけでなく競技そのもののスキルアップにもつながりやすい。 しかしこの技術向上の条件において、女子レスリングは不利な環境にある。世界的な普及もまだ発展途上にあるため、力が拮抗したライバルが少ない、または存在しないのだ。先行して強化に努めた日本の女子選手は、どうしても世界で孤立した存在になりやすい。 現在のようなスポーツとしての女子レスリングは1980年代に欧州で始まった。伊調馨が生まれた年の前年、1983年に国際レスリング連盟から競技として女子が認められ、1987年から世界選手権が実施されている。五輪での実施は、2004年のアテネ五輪大会からで来年のリオデジャネイロ五輪で女子にとっては4回目の五輪だ。近代五輪の第1回から開催されている男子のレスリングに比べ歴史が浅いため、女子選手にとって、レスリング技術の蓄積はまだまだこれからだ。