前代未聞の決定に衝撃…選手困惑「普通に試合できた」 エースFWが憤り、荒れたJ史上初の事態【コラム】
ヒーローのはずが…異例の決定に鄭大世はミックスゾーンで憤慨
その後、ミックスゾーンに選手たちが現れた。 試合後コメントならぬ、試合中断コメントを取ることになったが、最も憤慨していたのはヒーローとなるはずだった鄭大世である。テレビカメラの前で感情的なコメントを口にし、クラブ広報が止めに入るという一幕があったほどだ。 チームの顔である中村憲剛は、困惑しながらも言葉を並べていた。 「自分としては普通に試合ができたと思っています。小さい頃から、あのぐらいでも試合はやっていましたから。もちろん普段のようなプレーはできないかもしれないけれどできないなりにウチも鹿島も浮き球を使ったりしてやっていたわけだし……。一時中断になった時もみんな集中していたし、残り15分なのでやるものだとばかり思っていた。だから試合が中止になったのはびっくり……何と言っていいのか分からないですね」 後日、Jリーグの理事会により「残り16分の再試合をする」と決定された。中断となる時間までの試合記録を取り消さず、スコアは3対1のまま後半29分から審判団や出場選手なども同じ条件で再開するというものだ。中断時点から試合を再開するのはJリーグ史上初の出来事だった。 再開試合は約1か月後。この試合に向けた麻生グラウンドでのトレーニングでは、ファーストプレーとなる鹿島側から始まるリスタートを強く警戒していた。関塚隆(当時)監督からの「岩政に合わせてくるぞ!」という大きな声の指示が響く。鹿島がロングボールを選択し得点源であるゴール前の岩政大樹に合わせてくるセットプレーを想定し、入念に準備していたのだ。 結論から言うと、そのファーストプレーで川崎はいきなり失点している。再開から開始わずか8秒の出来事だ。伊野波雅彦からの前線のフィードが敵味方の密集するゴール前でこぼれ、合言葉のように警戒していた岩政に決められるという、考えられる中で最悪の展開だった。思わず記者席の椅子からズリ落ちそうになってしまった。 これでスコアは3-2。1点リードしているとはいえ、丸々16分残っており、鹿島はパワープレーを全力で繰り出してきた。2分後にはクロスに合わせたダニーロのヘディングがゴールバーを叩く。一方的な鹿島ペースだった。川崎はパワープレーをただただ耐え続けるという、まるで生きた心地のしない16分だったが、なんとか逃げ切って勝利。1か月待たされた白星を掴み、こうして史上初の再開試合は幕を閉じた。 試合後の中村憲がほっとした表情で言う。 「すっきりしました。やっと終わったので。勝って終われて良かったです。去年、一昨年のチャンピオンがあれだけの攻撃を仕掛けてきたなかで、最後まで崩れなかったのは良かったと思います」 そのほかにも森勇介が「2度とやりたくないですね」と苦笑いしていた姿も印象的だったが、おそらく本音だったに違いない。