シベリウス唯一のオペラ「塔の乙女」日本初演へ 東京・豊洲で29日 音楽的要素が凝縮
フィンランドのジャン・シベリウス(1865~1957年)が作曲した唯一のオペラ「塔の乙女」が演奏会形式で日本初演される。30歳の若きシベリウスが書いた1幕ものの小さいオペラで、1896年に初演された。今回は日本シベリウス協会創立40周年記念公演。同協会会長で指揮をする新田ユリは「本国フィンランドでも上演回数は限られます。交響曲を書く前のシベリウスの音楽的要素が凝縮されています。ワーグナーの影響がうかがえ面白い」と話す。 【写真】指揮者で日本シベリウス協会会長の新田ユリ ■素朴な物語 フィンランドで最も偉大な作曲家とされるシベリウスは、ハメーンリンナで生まれたスウェーデン系フィンランド人。ヘルシンキ音楽院で学び、ベルリンに留学、ウィーン音楽院でも学んだ。留学時代、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」の初演を聴き、ブルックナーを尊敬し、ワーグナーのオペラに親しみ感銘を受けている。 シベリウスといえば「フィンランディア」「悲しきワルツ」やバイオリン協奏曲、7つの交響曲などが知られる。このオペラ以前に、フィンランドの民族叙事詩「カレワラ」に基づく「クレルヴォ交響曲」、成功作となった交響詩「エン・サガ」、「カレワラ」発祥の地カレリア地方からインスピレーションを得た管弦楽曲「カレリア」などを発表している。 「オペラを作曲したのは、『カレワラ』をベースにした作品で名前が出てきた時期です。どういう形で世に出るか試行錯誤していました」と新田。 「塔の乙女」はスウェーデン語で書かれている。1幕8場で上演時間は約40分。登場人物は4人。あらすじは、川辺で花を摘んでいる美しい乙女。見初めた代官が花嫁になってくれと言い寄る。断られたため力ずくで連れ去り、城の塔に閉じ込める。乙女の恋人の農夫が探しに来て、もめていると城の奥方が登場し、乙女は解放される、という素朴な物語だ。 ■音の詩人 指揮者・作曲家でシベリウスの劇音楽研究者のトゥオマス・ハンニカイネンは日本シベリウス協会の取材に対して「『塔の乙女』はヘルシンキ・フィルの資金集めのために企画されたイベントで依頼されました。お金集めのためにはハッピーな作品の方がよいのです。われわれが知っているシベリウスより少し軽やかなスタイルです。シベリウスの作品は暗く重く、シリアスととらえられがちですから」と話している。 シベリウスは劇音楽を10作品以上書いている。しかしオペラは「塔の乙女」の前に未完に終わった「船の建造」があるだけ。