シベリウス唯一のオペラ「塔の乙女」日本初演へ 東京・豊洲で29日 音楽的要素が凝縮
新田は「シベリウスは『音の詩人』でした。劇音楽は書き続けました。劇の情景を描き、人の心に寄り添った音楽を書くのはうまかったのですが、オペラの壮大な世界を作るのにはそれだけではありません」と話す。
ところで2021年、120年ぶりに「塔の乙女」に由来する「コンサート序曲」が発見されたというニュースが流れた。この序曲作品はシベリウス自身が指揮したが、楽譜は残っていない。本来のオペラの序曲は2分余りで作品として成立しない。ハンニカイネンが「塔の乙女」の楽譜の一部に印がついているのを発見、つなぎ合わせ約12分の序曲作品として世界初演した。ハンニカイネンは「この序曲はオペラとは全く別なコンサート用の作品です。ヘルシンキ・フィルのヨーロッパ・ツアーのために作られたと思います。序曲を発見して、少し明るくハッピーなシベリウス像を提示できました」と語る。この作品も当日、日本初演される。
■日本人ならわかる
世界各国にシベリウスを愛するシベリウス協会がある。日本のシベリウス協会はイギリスに次いで大きい。それだけ日本ではシベリウスの音楽が好まれている。
新田は「シベリウスは20世紀に入っても調性を残し、実験的な手法の作品を書きませんでした。シベリウスは自分が聞いていた自然界の音、風や木々の音をそのまま形にしています。人間の手が入らない、手つかずの自然です。風がパタッとやんで静寂が訪れる、こういう感覚は日本人なら理屈ではなくて分かるのではないでしょうか。和楽器の間合いの取り方と同じです。自然とともに生きるフィンランド人の自然観と日本人は近いものがあると思います。フィンランド、イギリス、日本は周りに海があるのも同じです」と話した。
公演は「タイスへの賛歌」など歌曲も演奏される。前川朋子(乙女)、北嶋信也(恋人)、鈴木啓之(代官)、駒ヶ嶺ゆかり(城の奥方)、東京混声合唱団、創立40周年記念オーケストラ。11月29日、東京・豊洲シビックセンターホール。(江原和雄)