高橋海人主演「95 キュウゴー」ドラマの映像✕小説の描写で解像度が一気に上がる! 90年代の青春を小説で味わう
■90年代の青春を小説で味わう
この小説を読みながら思い出したのは、石田衣良の人気シリーズ「IWGP」こと『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫)だ。長瀬智也主演のドラマをご記憶の方も多いだろう。テーマも構造も違うのだが、特定の繁華街を根城にしている若者たちのチームのエネルギッシュな日々というのが共通している。「IWGP」の第1話が雑誌に掲載されたのは1997年で、その時点で主人公のマコトが「去年地元の工業高校を卒業した」とあるので、本書のQと同い年あたりだろう。ちなみにマコトはPHSを持っている。 「IWGP」のノリで読み始めたもんだから、私の中では鈴木翔太郎のビジュアルイメージは窪塚洋介(「IWGP」でキング役だった)だった。だがドラマを見て、なるほど、中川大志か、と膝を打ったね。ワルぶってるんだけど育ちが良くて基本的なところで優しいの、ぴったりじゃん! 中川大志に「このクソムシが!」って言われてみたい。 渋谷・池袋と来ると新宿が気になるが、この時代の新宿だと馳星周『不夜城』(角川文庫)になってしまって一気にノワール度が増し、バイオレンスも桁違い。ヤクザの息子のレオがそっち方面に行かないことを祈るのみである。渋谷にいてね。 近年の90年代小説なら、川上未映子『黄色い家』(中央公論新社)がいい。1995年に15歳の35歳のふたりの女性が出会ってからの5年を描いている。これもまた、2020年に大人になった主人公が20年前を思い出すという、『95 キュウゴー』と同じ構造の小説である。しかし登場する若者の設定はまったく異なる。『95 キュウゴー』が普通の、あるいは普通より上流で不自由なく暮らす高校生たちの暴走であったのに対し、『黄色い家』は少女たちが生きていくためにカード犯罪に手を染めるというクライムノベルだ。ルーズソックスやプリクラやたまごっちだけではない90年代後半が見えてくる。 他にも東野圭吾『幻夜』(集英社文庫)は阪神淡路大震災を隠れ蓑にした殺人から物語が始まるし、1995年に雑誌連載が始まった宮部みゆき『模倣犯』(新潮文庫)はこの時代に増え始めた承認欲求型の犯罪を描いている。阪神淡路大震災をテーマにした村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)では、著者が解題で地下鉄サリン事件にも触れている。『95 キュウゴー』を読んで/観て、どんな時代だったのか興味を持った方は、ぜひこれらにも手を伸ばしていただきたい。 大矢博子 書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。 Book Bang編集部 新潮社
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