クルマ史上“最大級のスキャンダル”VWショックとその後
■排ガス不正の手法
ふたを開けてみれば、フォルクスワーゲンは不正プログラムを使ってこの排ガス規制をパスしていた。それはこういうものだと思う。リアルな道路を走っていれば、どんなにまっすぐでも必ずステアリングが操作される。そうでなければまっすぐ走らないからだ。しかし、シャシーダイナモと呼ばれる測定器の上にクルマが乗っていれば話は別だ。どれだけ走ってもステアリングは全く操作されない。 これを検出して、制御プログラムは裏モードに入る。排ガステストでは、タイムチャートで加速や減速をいつどれだけするかが決められているから、排気ガスを浄化する触媒の効きが厳しくなる急加速がどのタイミングであるかは予め分かるのだ。触媒は温度依存性が高い仕組みなので、加速に入る前に予め暖めておきたい。タイムチャートさえ分かっていればそれは可能だ。排気ガス的に厳しくないタイミングに燃料を余分に噴射して、触媒の温度を予め上げておく。その上で急加速時にできる限り燃料を絞って触媒をフル稼働させるわけだ。 かくして、テストスペシャルの特別プログラムに制御されたエンジンは見事、世界一厳しい北米の規制Tier2 Bin5をクリアしてみせたわけだ。
■トーンダウンした報道
クルマを買ったユーザーは、もちろん表(おもて)プログラムだけで乗る。そこでは触媒が効いていようがいまいが、構わず、ドライバーがパワフルに感じられる制御が行われ「流石ドイツ製」という高性能ぶりを発揮した。 さて、ではこれがどの様に行われたのか? 実はこの不正プログラムを書いたのがフォルクスワーゲン自身なのか、サプライヤーのボッシュなのかが、現時点ではよく分からなくなっている。発覚直後には、ボッシュが「テスト用」として2007年に納入したという報道がされていた。しかも「規制逃れに使えば違法になる」という文書付きだと、より詳細に踏み込んでいたにも関わらず、その後の調べでは、何故か話が変わっていて、ボッシュの納品した不正のないプログラムを、フォルクスワーゲンが独断で書き換えたという報道になっている。 もちろんこの件の首謀者は明らかにフォルクスワーゲンだ。ボッシュはそんなものを主導的に作るメリットはない。仮に初期報道の通り、不正プログラムに荷担したのだとしても、フォルクスワーゲンに無理矢理要求されたのは間違いないだろう。だが、前提の話で恐縮だが、最初の報道で「文書で警告した」という部分に筆者は納得がいっていない。 触媒が働かない状態を再現するテストプログラムが、機能不全のテストに使われることはあり得るが、排ガス試験が行われていることを判別するプログラムが、違法でない用途に使われることがあり得るのだろうか? そしてそれは一体何のテストをするプログラムだというのか? 疑念は尽きない。いやそもそも書き換えたのはフォルクスワーゲンであって、ボッシュは関係ないと、時系列的に新しい報道では説明されているわけで、それが本当ならばボッシュには何ら責任がないことになるのだろう。