クルマ史上“最大級のスキャンダル”VWショックとその後
■垣間見える“闇”
その他にも闇が垣間見える話はある。 11月に入ってドイツの国交相が、フォルクスワーゲンが欧州で販売している「ガソリン車を含む」車両でも、CO2排出量を過小に見せる不正があったと発表した。しかし今度はその詳細が一切出てこない。事実の究明より先に、ドイツ政府がフォルクスワーゲンに対して「改心を求める」ていたらくで、何があったかは発表する気がないようだ。 実はこれは大変な話で、もしガソリン車もディーゼル車も、Euro5対応車もEuro6対応車もということになったら、さすがのフォルクスワーゲンも息の根が止まるぐらいの大事件なのだ。にも関わらず、報道は恐ろしいほどにトーンダウンしている。それもそのはず、筆者も気になるのだが、情報が出て来ない以上、逆立ちしても書きようがない。 フォルクスワーゲンの最大株主はドイツのニーダーザクセン州であり、ドイツの歴代政権にも多くの人材を送り出しているなど、国や地方自治体との結びつきが極めて強い会社だ。当然、構造的に当局からの厳しい追及は起こりにくい。 経済的整合性を考えればそれは正しい判断だろう。フォルクスワーゲンの息の根を止めたら、ドイツ経済が巻き添えを食うだろう。さらに問題がボッシュにも飛び火したりしたら本当にドイツ経済の危機である。 EUの弱小国はドイツが後見しているからこそ信用取引ができているので、ドイツ経済がおかしくなれば、EUの屋台骨が揺らぐのだ。それは世界恐慌の引き金になりかねない。 それが分かっているので、この問題を最初に突き上げたアメリカの環境保護局(EPA)がボッシュが関与していないという調査結果を出しているのではないかと筆者は勘ぐっている。まあそれはゲスの勘ぐりと思っていただいて結構だ。素直に発表を聞けば、当局の調査で“無罪確定”が出ているということなのだから。 おそらくフォルクスワーゲンの一連の不正の全貌が分かることはないだろう。すでに世界経済を人質に取れられている以上、誰もこれ以上不正を正すことは出来ない。もし真実が明かされるとすれば、それはずっと先のことになるに違いない。 「正義のために経済を破綻させても仕方ない」。それが2015年にこの問題に対して、世界が出した結論なのだろう。 (池田直渡・モータージャーナル)