日本に中華そばが根付いた秘密。「醤油」の、ある効果とは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。 山本益博のラーメン革命!
甲府に用事があった時に、ぜひ立ち寄ってみたい店があった。1964年創業で、「支那そば」を全国でいち早く復元したといわれる「蓬莱軒 本店」である。 昨年夏に出かけると、店の前には行列と人だかりで、駐車場には車がびっしりと並んでいた。順番が来て呼ばれ、店の中に入ると、ラーメンを食べている人より、中華料理のメニューを選んでテーブルを囲んでいる客のほうが目についた。メニューを見れば、確かに「支那そば」とある。迷わずに「支那そば」を注文すると、眼の前に運ばれてきたのは、たっぷりの醤油スープに細めのちじれ麺、チャーシューにシナチク、ナルト、それに海苔という定番のラーメンだった。
味は醤油味が全体を締めていて、それが「懐かしさ」を感じさせる一杯だった。食べ終えて、店内を見渡すと、「支那そば」が誕生したいきさつが書かれた額装があった。 「中国には支那そばラーメンという言葉も品物もない。肉や脂の匂いがするスープは明治の時代、当時の日本人に受けるものでなかった。醤油を入れる事で見事に獣臭を消し、日本で生まれた支那そば・東京そばが誕生した。時は明治三十八年」 読み返しながら「醤油を入れる事で見事に獣臭を消し、日本で生まれた支那そば・東京そばが誕生した」の一説に妙な共感を覚えたものだった。
東京の我が家に戻り、書棚から青木健著『教養としてのラーメン』を取り出し、ページを開いてみた。確か、冒頭に「醤油」について論述があったと記憶していたからである。 やはり書き出しは「ラーメンの基本ジャンル20」の「醤油」で「塩味が基本であった中華の麺類。それが日本で人気を博すきっかけの1つが、日本人になじみふかい、グルタミン酸豊富な醤油を使用したこととされる。ゆえに日本ラーメンのアイデンティティとも言える味、調味料」 「醤油」こそは、明治以来今日まで、ラーメンを土台から支えてきた立役者の「調味料」だったのだ。 すると、途端に気になりだしたのが、岐阜の「丸デブ総本店」の「中華そば」だった。岐阜で大正6年創業の「中華そば」と「わんたん」のみの店。この2月に名古屋に出かけた時、足を伸ばして、「丸デブ総本店」ののれんをくぐった。