小説で想定していた場所に東京湾岸警察署が…お台場を舞台にした刑事ドラマ「ハンチョウ」の原作に迫る
今野敏さんの警察小説「安積班」シリーズの最新作『夏空 東京湾臨海署安積班』(角川春樹事務所)が刊行された。 「安積班」シリーズは、お台場をはじめとする湾岸地域を管轄する警視庁東京湾臨海警察署を舞台に、安積警部補率いる刑事課強行犯係班の活躍を描いた作品だ。 最新作では、安積班メンバーに加え、国際犯罪対策課、水上安全課、盗犯係、暴力犯係それぞれの矜持にスポットを当てて書かれた短編集となっている。外国人による犯罪、 高齢者の運転トラブル、半グレの取り締まり、悪質なクレーマーなど、社会情勢を取り入れた作品の魅力とは? シリーズ20作目となる本作の刊行にあたり、文芸評論家の西上心太さんが、今野さん本人に安積班の始まりやこれまでの歩み、日本の警察小説の原点にいたるまでを聞いた。
■お台場舞台の警察小説シリーズ発想の原点とは
――安積が準主役で登場する『蓬莱』や『イコン』を除けば、本書『夏空』でこのシリーズは二十作目になります。第一作『東京ベイエリア分署』(『二重標的 東京ベイエリア分署』に改題)の刊行が一九八八年でしたが、そもそもお台場を舞台にした警察小説を書こうとしたきっかけは? 今野敏(以下、今野) 当時お台場は開発途中で、これからいろいろな施設ができてくる予定でした。次に高速道路を走り回るパトカーのイメージがわきまして、湾岸をくまなく管轄する警察署があったら格好いいなと。エド・マクベインの「87分署」シリーズが好きでしたし、日本には分署という組織はありませんが、ベイエリア分署というタイトルがぱっとひらめいて。 ――三冊出たところで一時中断して、六年ほどブランクがあった後に安積班ごと神南署に引っ越しますね。 今野 最初の版元の倒産があったり、お台場の開発も頓挫したりで、いっとき書く気が失せてました。その後『蓬莱』と『イコン』で安積を神南署の刑事として登場させました。当時代々木公園に変造テレホンカードを売る外国人が大勢いて、社会問題化していました。そこで神南署をその近くにある署に設定して安積班ごと引っ越しをさせました。 ――神南署は二作で終わり、二〇〇〇年に角川春樹事務所から刊行された『残照』から再びお台場に戻って現在に至っています。こうしてみると社会情勢に左右されたシリーズですね。 今野 仰るとおりです。でもシリーズものは社会情勢でも何でも、ネタを見つけられないと続けられないから必然的に反映されるようになりますね。 ――東京ベイエリア分署の正式名称は最初から東京湾臨海署ですが、お台場に戻った時もまだプレハブの二階建てでした。隣に七階建ての立派な新庁舎ができて引っ越すのは『夕暴雨』(二〇一〇年刊)からですね。 今野 『夕暴雨』の連載が始まる少し前の二〇〇八年三月に、東京湾岸警察署が開署しました。私が臨海署の場所として想定していたのと同じ場所に建てられたので驚きましたね。あとから聞いたのですが、署の名称を公募したところ、その中には臨海署というのもあったそうで、そうなっていたら面白かった。小説の中でも大規模な所轄署になりましたが、いまだにバラック建てで、安積が靴音を立てながら外階段を降りて来るというイメージがあります。 ――神南署が舞台になるテレビドラマの「ハンチョウ」が話題を呼び、シリーズへの注目もさらに増しました。ドラマのオリジナルキャラクターの女性刑事・水野を小説にも登場させました。 今野 テレビを見てからの読者にとって、原作を読んだら彼女がいないというのではおかしいなと思って登場させることにしました。須田と水野を同期にしたのはドラマと関係のない、オリジナルの設定です。彼女もいいキャラクターに成長したと思います。