スター不在?!年末格闘技に本当に見たい試合はあるのか
昨年の大晦日に魔娑斗が6年ぶりに現役復帰して山本“KID”徳郁と“エキシビション”で対決した試合は、04年に瞬間最高視聴率31.6%を弾き出した黄金カードの復活だったが、体重差、対格差がありすぎて、まともな勝負にならず、魔娑斗にパンチの切れはなく、ネットでは“茶番”と酷評された。だが、前述したように視聴率ではRIZINを上回っていた。局側からすれば、内容はともかく結果として成功したため、一夜限りの復帰の約束だった“キラーコンテンツ”の魔娑斗を懲りもせずに再起用して、また“昔の名前で出ています”的なワンマッチを組んできたのだろう。ただ、判定決着のあり方が批判を受けたことだけは反省したのか、今回は判定無しのKO決着ルールになっている。 UFCの現役ファイターである五味は、いくら人並み外れた当て勘を持つパンチが武器の総合格闘家といえど、パンチとキックだけの立ち技ルールでは不利。UFCの経営母体が変わってから、現在の五味とUFCとの契約関係がどうなっているのかは不明だが、UFCでは3連敗中。全盛期には、ボクシングルールで当時のWBC世界スーパーフライ級王者、徳山昌守との対戦交渉が実現寸前まで進んだが、これも今から10年前の話。近年、アスリートの選手寿命は飛躍的に延びているが、38歳の五味と、引退を二度撤回した魔娑斗との試合は、いかにも視聴率を意識をしたTV向きだ。 ただ大晦日に魅力的なカードもある。 RIZINが推し進める女子格部門だ。特にレスリングの国際大会で5大会連続の優勝経験があり、吉田のライバルだった村田夏南子と、UFC出場経験のある中井りんの試合は、注目の一戦。村田は、総合転向後、4連勝中と勢いに乗るし、世界で認められたパワーを誇る中井りんとの激突は、なぜこの試合を地上波中継のある大晦日のカードに持ってこなかったのか、不思議に思うほどである。 前述のタダシ☆タナカさんも、女子格闘技には世界へ羽ばたく可能性があるという。 「女子格闘技の分野は、DEEPという格闘団体が、先に目をつけたのだが、これが時代の要請なのかも。アメリカの格闘関係者から出てくる名前の筆頭は、村田夏南子。レスリングの下地のある彼女は、MMAの技術レベルが進んでいるアメリカで修行をしているが、評価が高くUFC女子のトップスターであるロンダ・ラウジーのライバルになるのでは?という期待の声さえ耳にする。僕は、村田は中井りんに圧勝すると予想していた。村田が、インフルエンザにかかったという情報が入ってきたので予想は難しくなったが、他にもデビュー戦で負けた山本美優の第2戦や、RIZINの中でポジションを作りつつあるRENAに加え、女子高校生ファイターの浅倉カンナを参戦させるなど、主催者の女子格への期待値の高さが伝わってくる」 元柔道の五輪メダリストで、全米でスポイラの表紙やESPN主催の最優秀女子選手賞に選ばれるなど超一流女子アスリートとして認知されているロンダ・ラウジーは、王座陥落後ブランクを作ったが、この年末に復帰即、タイトル戦を行う。今後、そのラウジーの対戦候補として村田の名前が出てくるとなると、ブレイクする可能性は大。異色の女子格闘技戦になりそうだった神取忍の欠場は残念だが、格闘業界のトップに君臨するUFCに、RIZIN代表として堂々と殴りこんでいくのは、女子が先になるのかもしれない。 格闘技復活のキーワードは、地上波中継復活と叫ばれ、昨年の大晦日で満を持してRIZINが立ち上がった。ただ、取材現場にいくと全盛期に比べてメディアの数がガクンと減ったことに驚かされる。記者会見ひとつとってもボクシングの世界戦会見に比べて注目度も露出度も逆転してしまった。PRIDE全盛期の桜庭和志のようなスターが不在で、当然、そのライバルも際立たない。このまま格闘界は、冬の時代を脱しきれないのか、それとも2年目の大晦日イベントが復活のステップとなるのか。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)