日本各地にモスク計画続々、資金集めにSNS イスラム教徒、相互扶助の精神は国境を越える
日本各地でモスク(イスラム教礼拝所)の建立計画が立ち上がっている。技能実習生の増加などイスラム教徒のコミュニティー拡大が背景にある。国内で少数派のイスラム教徒らは同胞や母国の著名人に協力を仰ぎ、交流サイト(SNS)を活用して資金集めに奔走する。(共同通信=上松亮介) 【写真】モスク建設予定地前に置かれた「豚の頭」建設反対で嫌がらせ 韓国
▽タレントも喜捨呼びかけ 「日本の友人を助けましょう!」。敬虔なイスラム教徒として知られるインドネシアのタレント、レイ・ムバヤンさん(25)がインスタグラムの動画で呼びかけた。イスラム教徒の義務である喜捨の一種で、相互扶助の精神により根付く「サダカ」を広く募った。 寄付先は横浜市在住のインドネシア人らでつくる一般社団法人「アッソーリヒーン・ヨコハマ・ファウンデーション」。2024年11月、約600人を収容可能な3階建て延べ床面積約650平方メートルのモスク建設を予定する。 イスラム教徒にとって喜捨は徳を積む宗教行為。苦境が続くパレスチナ自治区ガザのイスラム教徒向けに多くの支援が寄せられてきたのも、このためだ。インドネシアの著名人らの協力により、アッソーリヒーン・ヨコハマ・ファウンデーションには2023年末からのわずか3カ月で約7千万円が集まった。 モスク建設の発起人で、アッソーリヒーン・ヨコハマ・ファウンデーション代表のアリエフ・ジュナイディさん(39)は2009年に経済連携協定(EPA)の看護師候補として来日した。今後も日本で暮らすつもりだが、母国と違ってイスラム教徒は少数派だ。
「子育ての不安がモスク建設のきっかけになった」。モスクには珍しい子どもの遊び場設置を予定するなど独自の工夫を凝らす。「子どもにとって思い出の場所となることで、信仰の維持につながってほしい」との思いを込める。 ▽日本のムスリム27万人超 在日イスラム教徒に詳しい早稲田大の店田広文名誉教授は、2023年12月時点で国内のイスラム教徒は27万人超と見込む。1980年代前半に4カ所だったモスクも、2024年4月時点で133カ所に増加したと推計する。 東京都渋谷区にある国内最大級のモスク「東京ジャーミイ」は、他のモスク建立の動きを支援してきた。多くのイスラム教徒が集団礼拝に訪れる金曜日、同胞へのサダカ呼びかけの場として礼拝堂を提供する。2024年5~6月にも、東京都や埼玉県でモスク建立を目指すイスラム教徒らが呼びかける予定だ。 東京ジャーミイの広報担当下山茂さん(75)は、インドネシア人技能実習生の増加などイスラム教徒コミュニティー拡大の「大きな波」が来ていると指摘。「地域に開かれたモスクが増え、イスラム教徒と日本社会が互いに異文化理解を深めるきっかけになってほしい」と期待した。
【モスク】 イスラム教徒にとって五つの義務「五行」の一つである礼拝を行う建物。額を地に付けて拝む場所を意味するアラビア語「マスジド」が語源。イスラム教徒の男性には、金曜日の昼にモスクでの集団礼拝が義務付けられている。信徒らは礼拝の時を告げる「アザーン」で集まり、サウジアラビアにある聖地メッカに向かって祈りをささげる。