【問う 時速194km交通死亡事故】大分地裁であす判決 危険運転致死罪の成立、「進行を制御することが困難な高速度」と「妨害目的の運転」が争点
大分市内で時速194キロで車を運転して死亡事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪で懲役12年を求刑された被告の男(23)=同市=の裁判員裁判は28日、大分地裁(辛島靖崇裁判長)で判決が言い渡される。同罪の成否を巡り、検察側と弁護側は全面的に対立した。「分かりにくい」と全国各地の遺族に批判されてきた条文を地裁がどう解釈し、被告に刑罰を科すか注目される。 争点は、同罪の処罰対象となる▽進行を制御することが困難な高速度▽妨害目的の運転―の2類型に当たるか否か。 制御困難な高速度は、何キロオーバーしたかだけでなく、「車の性能」「道路の状況」に応じた運転ができていなかったことの立証が必要。妨害目的は、他の車に急な事故回避の運転をさせることを積極的に意図していたこととされる。 検察側は、プロドライバーの走行実験により「現場の路面は凹凸があった。時速194キロ走行は進路を逸脱する恐れが高い」と主張する。専門家の見解を基にして、猛スピードだと視野が狭まり、一般道での事故回避は困難になると指摘。「他の車の進行を妨害するのが確実だと認識していた」と述べ、妨害目的の認定も求めた。 危険性については「ひとたび事故を起こせば、人を死亡させるのが必然と言える次元。常軌を逸した高速度」と非難する。 これに対し、弁護側は文献や裁判例を引き合いに出し、「直線道路を進路に沿って真っすぐ進んでいたら、極端な高速度であっても同罪は成立しない」と訴える。 「被告の車は高性能で、運転を制御できていた。他の車を妨害する積極的な意図もない」と反論した。プロドライバーの実験は事故から3年3カ月が経過しており、「路面が変化していた可能性がある。実験で使った車も、被告の車より性能が低い」と述べ、信用性に欠けると強調した。 被告が事故を起こした事実に争いはなく、危険運転致死罪が成立しなければ、過失運転致死罪で有罪判決が出る。検察側は同罪なら「懲役5年が相当」と求刑している。 被害者参加制度を利用して全ての審理に立ち会った被害男性の姉(58)は「弟のためにやれることはやった。大分地検にも感謝している。あとは判決を待つだけという思い」と語った。 判決の言い渡しは、28日午後3時から。同1時50分~2時10分まで地裁正面玄関で傍聴整理券を配り、多数の場合は抽選をする。 <メモ> 危険運転致死傷罪を巡っては「適用要件が曖昧」との指摘が後を絶たない。法務省の有識者検討会は適用基準を明確にするため、一定の速度超過があれば一律に同罪を適用する「数値基準」の導入を提唱している。27日に第11回会合があり、最終報告をまとめる。 <時速194キロ死亡事故> 2021年2月9日午後11時過ぎ、大分市大在の県道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。