為替介入でも円安止まらず ネットサービス・新NISAでカネは海外へ
デジタル赤字は年5兆円
足元の円安はこの金利差が引き起こしているのは間違いない。だが、円売り・ドル買い需要を生み出す構造変化が静かに進んでいることも見逃せない。 第1に、日本人による米グーグルや米アップルといった巨大プラットフォーマーのサービスの利用が急拡大していることだ。利用料金の支払いには円を売ってドルを買う必要があり、国をまたいだ「デジタル赤字」は年5兆円規模に達する。 米マイクロソフトのクラウドサービスや米ネットフリックスの映像配信サービスなどはビジネスや生活で欠かせないものとなり、代替する国内サービスも少ないことから、今後も円の下押し圧力として続く。23年には、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す「貿易・サービス収支」が5年連続で赤字となった。 第2に製造業を中心とする国内産業の空洞化だ。日本企業は過去の円高局面時に生産拠点や販売網の海外移転を進めた。稼いだ外貨が円に転換されれば円高・ドル安要因となるが、人口減で大きな成長が見込みにくい国内に還流させることなく海外で再投資するサイクルを回し始めている。企業の海外子会社の利益などの「直接投資収益」は23年に20兆円超の黒字となったが、その多くが海外子会社に残ったままだ。 ●為替介入には限りがある 第3に、1月に始まった新しい少額投資非課税制度(NISA)を通じた個人の海外投資だ。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」や「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」など米国株を多く含むインデックスファンドが人気で、投資先は海外の株式や債券などが多くを占める。 日本総合研究所によると、新NISA開始による海外投資額は最大で年3兆9000億円程度となる見通しだ。これはドル円相場を最大6円弱下押しする計算だという。新NISAでは多くの個人が毎月決まった額の投資信託を買う積立投資をしているため、為替の動向に関係なく一定規模の円売り・ドル買い需要が繰り返し生じることになる。 前述のように29日に政府・日銀が実施したと見られる円買い介入は5兆円規模と推測されている。3月末時点の政府の外貨準備高は約1兆2900億ドル(約195兆円)であり、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野氏は「1回の介入が5兆~6兆円とすると、介入ができるのは20回程度まで」と見る。 日本単独の為替介入は効果が限られるが、長引くインフレを退治したい米国にとって円高・ドル安要因となる協調介入は現在の金融政策に反する動きとなるため受け入れることは難しいだろう。日本は介入で時間稼ぎをする間に米国の利下げを待つしかないのが実態だ。 市場関係者は2日未明(日本時間)に発表される米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果に注目している。パウエル議長から金融緩和に消極的な「タカ派」の発言が飛び出すようだと円売りが再び勢いづき、政府・日銀が介入で対抗するといった展開も考えられる。
阿曽村 雄太