【高校サッカー選手権】「史上最弱」から全試合無失点で頂点に 新潟明訓が9年ぶり7度目の全国へ
2試合連続ハットトリックのエースFW9阿部日夏太(3年)を擁し4試合32得点の開志学園JSCの攻撃を、新潟明訓のハードワークが押さえ込んだ。準決勝で今夏の全国総体4強の帝京長岡も零封した守備力は決勝の大舞台でも崩れることなく、県予選全5試合を無失点。ディフェンスリーダーのDF4福原快成(3年)は「自信になった。全国でも(守備力は)通用すると思います」。前半に挙げた1点を守り切った明訓が9年ぶり7度目の全国大会出場を勝ち取った。 【フォトギャラリー】新潟明訓 vs 開志学園JSC 試合はキックオフ直後、1分も経たないうちに動いた。右サイドからMF2風間聖来(3年)がロングスロー。FW10斎藤瑛太(3年)の放ったシュートが相手DFに当たってこぼれたボールをMF12鈴木快空(2年)が押し込んだ。「狙い通り」と明訓・坂本和也監督。磨いてきたセットプレーで先制した。 守備の良い明訓にリードされて早く追いつきたい開志JSCは縦へ縦へと攻める。しかし攻め急ぐ余りプレーが単調になり、エースの阿部、FW20イヴァニツキー・レオ(3年)も明訓の2センターバック、福原とDF5加藤祐羽(2年)の厳しいマークに遭って攻め入れない。それでも前半30分辺りからようやくサイド攻撃が効果を発揮し始め、FW11徳丸祐希(3年)が左から再三効果的なパスをゴール前へ供給。開志JSCが流れを引き寄せて前半が終了した。 前半の勢いのまま後半入った開志JSCだったが、5分にエース阿部が勢い余ってセーブした相手GKへの危険なプレーで一発退場。その後はイヴァニツキーがパワーを生かして攻め入るも孤軍奮闘は否めず、試合が暗転した。 主導権を握った明訓だったが、「逆に難しかった」と坂本監督。押されながらも均衡していたゲームが、数的優位になったことでバランスの維持が難しくなり、より慎重にならざるを得なくなった。ネットを揺らすシーンが2度あったが、いずれもオフサイドで突き放せなかった上、相手が捨て身の攻撃を仕掛けてあわやのシーンも作られるなど、再び試合の流れを持っていかれてもおかしくなかった。 しかし耐え凌いだ。最後まで自分自身を信じ続けた。明訓は、今年戦うU-18プリンスリーグ北信越1部では先制すると1度も負けていない。坂本監督は「1-0でいいんだよ。勝ち急ぐことはない」と、この決勝でも選手たちを鼓舞した。今年のチームは「至上最弱」と言われ続けてきた。主将のFW10斎藤は「(県予選が)始まる前は、どこで負けるんだ、って言われていました。個々の力は劣っていても、チームとしてまとまれば勝てるというのを証明できた」と、胸を張った。斎藤は昨年の県予選で肩を脱臼し、チームもベスト16で敗れた。悔しさを忘れず戦えと、クラスメートが入院中の斎藤の写真を特大パネルにしてスタンドから声援を送った。信じ続けたのは選手だけではなかった。「めっちゃうれしかったです」(斎藤)。 2008年から同校のコーチとなり、20年に昇格した坂本監督にとっても決意の今シーズンだった。「今大会でもし(全国へ)行けなかったら身を引こうと思っていました。最後の試合という気持ちで毎試合やっていたので、生徒が本当に頑張ってくれて良かった。諦めないでやれば、いつかは勝てる時も来ますし、過去の失敗や悔しい経験が今日の決勝で生きたと思います。相手が退場なったり、うちがケガしたりイエローをもらったり、どんなふうになっても冷静に(対処)できたことは、自分がこの5年で成長できたところかな」。感極まりながら指揮官は振り返った。 開志JSCは、最終盤はGKも上げた総攻撃でロングスロー、コーナーキック、フリーキックと立て続けに見せ場を作った。宮本文博監督は数的不利になっても果敢に攻めた選手たちを褒めるとともに、退場となったエースを思いやった。「決して負け惜しみではないが、彼は選手権に出て終わり、の選手ではない。この苦い経験を生かして成長してくれると思う」。 (文・写真=いのうえ・しんじゅ)